ただ座ってるだけで、時折立ったり歩いたりするだけだった卒業式も呆気なく終わり、教室へと戻って来た。今日でこの教室に入るのも最後なんだと思うと、なんだか感慨深い気がして、「この教室に来るのって、もうないんだね」と隣りの席の清水嬢に笑いかけると、「そうだね。ちょっと淋しいよね」と笑顔で返された。
ほとんどの人がこのまま持ち上がってクラスを再編成されるだけ。――けれど、その中に私はいない。そう思うと少し淋しい気もした。
いつも着ていた制服に、いつもはつけない造花をつけた。紅色のそれは、確かに、私が今日で三星学園から離れるのだ、と私に強く教えてくれた。
「ちゃん、一緒に写真撮ろう!」
「あ、うん、良いよ」
たぶん、機会がなければもう会えないだろうクラスメイトと写真に映る。笑顔のクラスメイトと、同じく笑顔の私。――みんなと離れてしまうのは、確かに淋しいけれど、向こうには廉がいるから。廉がいるなら、大丈夫。
* *
家に帰ろうと歩いていると、廉を見つけた。廉の背中に、とすんと卒業証書の入った筒をあてると、廉が驚いたように振り返った。そして、その手の持ち主が私だとわかると安心したように息を吐いた。……一体、何だと思ったんだか。
「これで三星とも群馬ともお別れだねー」
「あ、……う、ん」
「荷物はちゃんと整理できた?」
「う、ん」
たどたどしく返事を返すだけの廉。彼は何かを思い悩んでいるようにも見えたし、何かを考えているようにも見えた。廉を追い越すように走り、止まる。廉の数歩前から、振り返り、そして、じっと廉の目を真っ直ぐと見つめて、声を紡ぎだす。
「ねえ、廉。やっぱり、三星から離れるのは淋しい?」
廉は私の目をぼんやり見つめていたけれど、ほんの微かに首を頷かせた。
「――ちょっとだけ、淋しい。けど」
「けど?」
続きを促がす。廉は、やっぱり呟くように返す。
「がいるから、淋しくない よ!」
頬っぺたをほんの僅かに赤くした廉は、言い切ると俯いてしまった。私はまた廉の横に並んで歩き出す。
「――そっ、か」
なんだか気恥ずかしくて、そうとしか返せなかった。きっと、私の顔も赤いんだと思う。廉より上か下かは、あんまり想像つかなかったけど。
――廉の言葉と、信頼が、嬉しい。
Graduation
これは、別れだ。
2006/08/14