まとめた荷物のほとんどを宅急便で送ってしまったので、なんだか、部屋の中が殺風景だ。大きい家具ぐらいしか残ってなくて、生活感に失せた部屋になってしまってる。もう、この部屋を「私の部屋」と呼ぶことはない。
 もうすぐ、お母さんが迎えに来る。あれ、お父さんだったかな? まあ、どっちでもいいんだけど。
 今日限りで、私と廉が自宅の方に帰るってことに、変わりはない。三年間で結構暮らし慣れたこの家とも、もうお別れだ。――永遠の別れってわけじゃない。遊びにいく気になれば、何時だって来れるから、大丈夫。
 見慣れた窓からの景色を一撫でする――のと同時に、家の前に一台の車が止まる。お母さんの車だ。私は財布とかちょっとしたものだけが入った鞄を持って、階段をおりた。階段を下りきると、ルリがこちらを見て笑う。

「お迎え、来たよ」
「知ってる。上から見えたもん」
「そっか――じゃあね、
「うん。またね、ルリ」

 ルリに手を振り、外に出る。――埼玉へと、帰る。


 * *


 しばらく車に揺られて、着いた自宅。ずっと座っていたから、なんだか体がだるい気がする。ちょっと眠いかもしれない……、と思いながら、お母さんが淹れてくれたお茶を飲む。
 宅急便で送った荷物は明日の朝九時頃に届くらしいので、届いたらそれを部屋に配置する必要がある。三年間家を空けていた所為で、自分の部屋の内装ががらっと変わっていたから、そういったところもちょっとずつ直せると良いなあ……。

「あ、えと」
「どしたの? 廉」
「……明日、確か、新入生説明会、だったよね……?」
「あ、そうだっけ。忘れてた」

 すっかり失念していた。確か一時からだったはずなので、荷物が全部整理しきれなかったら途中放棄していく必要があるということになるのか。開封だけして、帰ってきてから整理した方が楽かな。どうだろう。

「説明会がどうしたの?」
「……あの、えと……。やっぱり、何でも、ない」

 廉が言いよどんだ。廉の目をじっと見つめるけれど、廉は何も言わんとするかのように、私から視線を外して俯いた。私は、廉が何を言おうとしていたかなんてわからなかったけれど(だって私に読心術なんてないし)、ぽすんと廉の頭を撫でて言った。

「何言おうとしたかは聞かないけど、辛くなったら、自分で背負い込まないで言ってね?」

 廉は小さな声で「ありがとう、」と呟いて、小さく頷いた。――けれど、今言いよどんだ言葉を言うつもりは、ないようだった。




I'm home!

ただいま。



2006/08/16