髪が濡れたままソファに座っている廉が、さっきから危なっかしい。きっともう眠いのだろうと思う。まだ首のすわってない赤子のようにふらふらと首が揺れている。私は廉の髪の毛にくしゃりと触れた。まだ普通にびしょ濡れ。私は小さく溜め息をついて、タオルを廉の頭にばさりとかけた。
「え?」
「かわかさないと、風邪ひくよ」
ぽふぽふとタオルで髪を叩いて、水分を吸収する。私と同じような髪質の薄茶の髪だから、どうすれば乾きやすいかなんて熟知している。
私は廉の髪を乾かしながら、廉にゆっくりと問い掛けた。
「もうねむい?」
「――うん、ちょっと眠い」
「そっか。乾いたら起こしてあげるから寝てなよ」
そう言ってあげると、廉は「そうする」と呟いた。それのすぐ後に聞こえてくるのは、規則正しい息遣い。
――廉は、心理的に負荷がかかったりすると、独りで眠れない。同じく、私も精神負荷が多くなりすぎると独りでは眠れなくなる(廉の場合、耐え得る負荷量が、私より、格段に少ないけれど)。そうなったとき、私たちは、半身がいないと寝られない。ずっとずっと寄り添っている半身の温度が近くにないと、安心できなくて、不安に押し潰されそうになって、眠れなくなるのだ。
とんとんとん、と廉の髪を優しくタオルで撫でる。指で髪を梳いて、空気を通す。触りなれた廉の髪(髪質はほとんど私と同じだ)を撫で、タオルで挟むようにして髪の毛を乾かしていく。
それをいくども繰り返して、廉の髪はあらかた乾いた。私はそっと廉の肩を揺らして、名前を呼ぶ。
「廉」
「んー……」
「髪乾いたけど、このままここでずっと寝ちゃ、風邪ひいちゃうよ」
後ろからではなく、前に回って、廉の寝顔をまっすぐ見つめながら、もう一度廉の肩を揺らした。廉が小さく身じろいで、緩々と目を開いた。
「おはよ」
「おはよ……、今何時?」
「23時ごろ。寝るなら、部屋に行ってからにしないと……」
そこまで言ったとたん、廉の手がふわりと私の背に回ってきた。そして、まるで縋るように泣くように、私をぎゅうと抱き締めた。ほんの少しだけ震えてる廉の躰に、怖い夢でも見たのだろうか――と不安になりながらも、その廉の体に身を預けて、されるがままになっていた。
「怖い夢でも、見た?」
「……見て、ないよ」
「そっか。なら、良いけど」
私はそう言って、廉の背中に腕を回した。宥めるように廉の背を撫でてやると、廉は目を細めた。指先から伝わる何かを、ゆっくり受け入れているように見える。
「――今日、一緒に、寝てもいい?」
「うん、良いよ」
私も、少し明日からどうなるか不安だったから、廉が言ってくれなかったら、私から言うところだったから。
そう言って微笑むと、廉はほっと安心したような顔になって、とても幸せそうに、素敵な言葉を言ってくれた。
「俺、と一緒にいるのが一番好き」
「……私も、廉と一緒にいる時が一番好きよ」
ソファとテーブルの間に挟まった私と廉は、もう一度ぎゅうっと抱き合って、どちらからともなく離れて、示し合わせたわけでもないのに、目を合わせて、微笑みあった。
明日は、入学式。不安と、希望が、募る。
白いタオルで
あなたの頭を、優しく撫でる。
2007/08/03