「――っ、い、た」
シーツをぎゅうっと握り締めて、が眉を顰める。彼女の声に滲んでいた涙に、俺は急いていた自分を抑えて、そうっと彼女の顔を覗き込んだ。目尻には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ごめ、痛か、った……?」
「ん、ちが――っ、」
「無理、しなくて良いよ」
そっと髪を撫でる。その手の先を眼でたどって、明らかに安心した表情を浮かべる彼女の頬に、俺は口付けた。シーツを握ってた手をそっと放して、は俺の頬に触れて、俺の目の上にキスをする。少し申し訳無さそうな顔をしながら、こつん、と額に額をあてられた。
「ゆーと、ごめんね」
は、「私が痛がったから、でしょう?」と小さな声で付け加えた。俺はそんながとてもとてもいとおしくて、「だいじょーぶ」と言った。それでも申し訳無さそうな表情が消えないから、の手を拾い上げててのひらに口付ける。ぱちくり、と驚いたような顔色になって、丸い眼で俺を見上げてくる。
「俺はのことが好きだから、待つよ。そりゃ、寸止めはキツいけど――無理強いは、したくないから」
「ゆー、と」
「が痛いなら、痛くなくなるまで待つし」
ぽすんと、頭を撫でる。が、ゆっくりと目を細めた。それで、ほんの少し笑う。少しぎこちなさの残る笑顔だったけど。
「も、だいじょぶ」
「――でも、」
「私も、勇人のこと好きだから、ちょっとぐらい我慢する、よ?」
どっちもどっちなの。だから、ね、大丈夫だよ。
そう言ってくれるがどうしても好きで好きで仕方なくて。俺はにそっと問い掛ける。
「ほんとに、平気?」
「へーき、だよ」
どうにも信用ならない、気がする。はよくムリしすぎて体壊すし。――ああ、じゃあこうすればいいのか。の右手と、俺の左手を繋ぐ。きょとんとして見上げてくるに、囁いた。
「痛かったら、この手握ってよ。強くしてもいいし、爪立てたって良いよ」
「え?」
「これで痛み分け。だけ痛いなんて、不公平」
そう告げると、は繋いだ手と俺の顔とを、順番に見比べて、おずおずと問い掛けてきた。
「……こっちの手、痛くても、平気? 野球、とか――」
「うん、平気。大丈夫だから」
使わないこともないけど、言ったらはそれを拒否するだろうから、言わない。
「じゃあ、うん。――できるだけ、力入れすぎないようにするね」
「……入れて良いんだけどね」
一瞬苦笑。そして、にキスを落とす。ぴくりとの肩が震えて、ぎゅう、と、ほんの僅かに、左手が握られた。
湖底に沈む
そして、君と共に溺死する。
2006/08/03