「いや、、よくブラックのコーヒーなんて飲めるな……」
私の前に座る、クラスメイトの浜田は、紙パックのいちごみるくを飲みながら言った。右手にはパン(最寄のコンビニ、もしくは購買で購入したものと思われる)の袋、左手には紙パックという、如何にも「早弁してます!」といったスタイルである。
「――そう? むしろこの苦さが美味しいって思うんだけどね、私」
まあ、そういうのって人それぞれだけどねーと言いながら、私はひとくちコーヒーをすすった。校内の自販機でワンコインで購入した、ブラック無糖缶コーヒー。
浜田は「いやー、は大人だな!」とよくわからない相槌を打ちながらパンのラストひとくちを口に放り込んだ。と、それのすぐ後、浜田の背中にどしんとひとつの台風が。
「はーまだー! 俺にもひとくちー」
軽快な声。見てるこっちが元気になるような、巻き込まれるような、そんな引力を持った、小さな太陽のようだと思う。彼の笑顔は、そう見える。
「おお、田島。訳大丈夫なのか?」
「泉が写さしてくれた!」
「おー、良かったな」
「ん! 浜田ーこれちょーだい」
「いいぞー。ほれ」
目の前で繰り広げられる会話に、田島はほんとに元気だなあ、なんて少し微笑ましく思ってしまう。クラスメイトにそういうことを思うのは、何だかおかしい気もするけど。
「もうない……」
ずずず、とほとんど空に近い状態の時に紙パックが奏でる、あんまり聞いてて心地のいい音じゃない音が聞こえてきた。田島が飲むほど、いちごみるくが残ってなかったのだろう。
「うー、ノド渇いたー……は何飲んでんの?」
「コーヒー」
「ひとくちちょーだいっ!」
「別に良いけど、ブラックだから止め――」
そう言いかけたのだけど、私の言葉は明らかに遅すぎた。「止めておいたほうが良いと思う」の半分も言い終わる前に、田島は私の手から缶コーヒーを引っ手繰っていたのだ。止める間も無く、田島はコーヒーを飲み込んだ。大丈夫か、田島。
「にが……っ!」
田島が缶を落とさなかったのが唯一の救いだ。私は多分まだ中身が残ってるだろう缶を田島の右手からひょいと取り上げた。
「あーもう、言わんこっちゃない。言うの遅れたけどさ。大じょ……っ」
左腕が引かれて、それに従って身体が傾くと、突然、唇がふさがれた。ちょ、え、何なの突然!? あーあー! 目の前で見ちゃった浜田が目ェ引ん剥いてるじゃない! 突然のことに、私も眼を開けっ放しですよ、ええ!
唇が解放されるて、田島の方を(信じられないものを見るようにして)見ると、田島は「にっ」と太陽みたいに笑った。
「とのキスは甘いな! ゲンミツに!」
チャイムが鳴って、田島が「じゃーなー」と言って席まで帰ってく。
……ねえ、私はこれにどう対応すれば良かったの? つーか、手元に残った缶、口つけちゃったら間接キスじゃないですか。
ああもう、私どうすれば良い? 浜田、助けて。
「……ごめん、。俺には無理」
うん、そうだろうと思ったよ。
ほんと、どうすれば良いの。――田島のくちびるの感覚が、離れない。
コーヒーにお砂糖を
キミとのキスは、俺には砂糖。
2006/08/05