このつまらない日常でよく世間は満足できるな、と違う路線で感心したことがある。
ある意味ではあるが、そのおめでたい思考回路は尊敬に値するとすら思う。
この同じような日を重ねる毎日はあまりにも暇だ。
だからこそ、その暇を潰せそうなものを見つけたときは酷く興味をそそる。存分に玩び、楽しみたいとすら思うのだ。
「さんおはよう」
「……おはよう、金沢くん」
「今日は英語で小テストがあるらしいよ」
「…そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
最近見つけたオモチャになりそうなもの―― 。
確信はないけれど、きっと彼女は気付いてるだろう。僕の被ってる仮面に。
普通の人なら気付かないような、ほんの僅かな探るような目で時折僕を見るのがそれを物語っている。
彼女は僕の中の内面を探ろうとしているのか、僕の内面を知っているのか。どちらなのかはわからないけれど、何かに気付いているのだろう。
「のとーちょっと良いかー?」
話を中断して、扉の方に視線を向ける。
「あっ、富山くん」
彼が望む「金沢のと」の姿で、扉まで駆け寄る。その僕の姿を、の視線がぼんやりと追う。
話の重要な箇所だけを脳でフィルタリングして聞き流し、視界の端でを見遣る。
彼女の視線は、もう僕から外されていた。
その事実に、少なからずつまらないと感じている自分がいた。
「今日現国あるか?」
「あ…今日は古典だけなんだ。ごめんね」
申し訳無さそうに眉を顰め、上目遣いで顔色を窺う。
彼は「そうか」と残念そうに呟いて、どうしようかと考えるように顎に手を当てて口許に指を宛がったが、すぐに「ほかのクラス当たるな」と言って去って行った。
「ばいばい」と可愛らしい少年を偽りながら背中を見送り、自分の席に戻ろうとすると、が机に突っ伏していた。
おやおや、と思いながらの前に行き、声を掛ける。まるで何も知らない清い少年を被って。
「さん? 具合悪いの? 大丈夫?」
「うん。大丈夫、眠いだけだから」
むくりと身体を起こして答えが返ってきた。
起こそうとしてやっていたことだけれど、まあ申し訳無さそうな顔をしておこう。
眠かったのに起こしちゃってごめんね。そう訴えかけるような顔をして。
「あ、眠いなら寝てて良いよ。起こしてごめんね」
「もうすぐSHR始まるみたいだから良いよ。ありがとう」
「……ごめんね、ありがとう」
またひとつ表情を偽ったところで、先生が教室に入ってきた。ち、と胸の奥で舌打ちをして席に戻る。
連絡事項は軽き聞き流していたが、とりあえず理科は自習らしい。そういうところだけは必ず聞き取る自分に思わず笑みが浮かぶ。
左斜め前にいるに視線を動かした。
気付いているのか、いないのか。それはわからないが、彼女は少なからず僕に疑念を抱いている。それは確実だ。
* *
軽やかなチャイムが流れ、その音に閉じていた目を開き、時計を確認する。――ああ、ちょうど5時間目の始まりか。
寄り掛かっていた柵から背中を離し、佇まいを直す。特にやることも無く、ポケットから携帯を取り出し、適当にいじる。
――またバルヨナの誰かでも虐めるか? と喉の奥で呟くのとほぼ同時に屋上の扉が開こうとして擦れるような音をたてた。
邪魔が入ったか、とそちらに視線を投げると、そこにはがいた。
「……え……あ、金沢、くん?」
「うん。――、さんもサボり?」
「……そんなところ」
ご一緒しても良い? と問い掛けるに明るい声で「良いよ」とだけ返す。
するとは「……ありがとう」と笑って、僕からちょっと離れたところにちょこんと座り込んだ。
「――金沢くん、理科嫌いなの?」
「普通かなあ。さんは?」
「私は理科苦手なんだ。文系人間だからかなあ?」
また、が探るような眼で僕を見た。
その眼に気付いていない振りをしていたところで、ふと、衝動が湧き上がる。
に真実を見せたら、どうなるだろう? ――と。
暇で飢えていた好奇心が、その思考に従ってしまったのだ。
「ねえ、?」
「…………え、」
「は、どこまで、気付いてた?」
立ち上がって、の眼を見下ろし鋭い声で問い掛ける。
驚いたように見上げるの顔が、僕の好奇心を満たすことを望みながら、わざと強い口調で訊く。
「……金沢、く」
「どこまで偽者だって気付いてた?」
の目には怯えが宿らず、純粋な驚きだけが映っていた。
02*偽りだらけの日常
2005/12/06
のと様本性表すのはやい! でも白のとのままでは私には書けそうになかったんです……。
ヒロインが素を出してないからどうにかなるかなあ。しないとなあ。
あと8話。8話で収拾出来るように頑張ります。
のと様はクラスというか学校ではこんなこと考えながらやってそうです。
ていうかもう白のとだとすんなりいかなくて違和感を感じる自分がいるよ……。
RETURN