Affection Tea
なんだか、急に会いたくなった。
そう思っているのは自分だけだと知っているからこそその感情は恥ずかしくもあり悔しくもある。
「!ちょっと来て!」
特に用も無いのに声を張り上げてを呼ぶ。
は一応僕に仕えるメイドだから、僕の呼ぶ声が聞こえれば多分やりかけの仕事を投げ出してでも来ると思う。
こんなことしてを少しでも長い間近くに置いておきたいなんて心理、本当はあってはならないものなんだけど、それを咎める人は幸い居ない。
それなら職権濫用ぐらいどうってことはない。
慌てたような足音が耳の奥に届いて、僕は笑みを深くした。
コンコン、と幾度となく聞いた、聞き慣れたリズムのノック音が聞こえる。
2秒ほどの沈黙の後、「失礼します」の声と一緒に扉が開く。
「お、遅れて申し訳ありません。如何なさいましたか、カイン様」
「……紅茶、飲みたいから今すぐ準備して」
これといった用事が無い状態で呼んだ割には、まともな用件が言えたと我乍ら思う。
はふわりと微笑んで僕に言葉を投げかける。
「はい、今すぐ。茶葉は何になさいますか?」
「に任せる」
「畏まりました。少々お待ちください」
軽く頭を下げて一礼しては退室した。
何分ぐらいで戻ってくるだろう。5分もあれば戻ってくるだろうか?
ああ、の居ない時間は退屈だ。
…早く戻れ。これは命令だ。
そうとでも言えば、あなたは今すぐにでも飛んで戻ってきますか?
取り留めの無い、結論なんて絶対に出ないこと考え込んでみた。
考えるだけ無駄だとわかっていても考え込んでしまうのは人間特有のことなんだろうか?
「カイン様?失礼致します」
「……」
「どうぞ」
「…ああ」
紅茶が注がれたティーカップをは僕に差し出した。
特徴のある独特の芳香が鼻腔を刺激する。
この薫りは、多分。
「ダージリン…多分、セカンドフラッシュ」
「ええ、その通りです」
そう言って微笑むの顔を見て、なんだか心がほんのり温かくなるのを感じながら、僕は一口紅茶を飲んだ。
マスカットフレーバーの爽やかで仄かな甘さが口に広がる。
無意識の内に口から溜息がこぼれた。
「…美味しい」
「そうですか、それは嬉しゅうございます」
安心したような笑みが、数あるの笑い方の中で一番好きだ。
その顔はとても愛しくて、大切なものだった。
いつまでもこの笑顔が僕の隣りにあってほしいと、心の奥で小さく祈った。
「」
「はい」
「…ありがとう」
「いえ、…どういたしまして」
にカップを返し、僕は組んでいた足を組み替えた。
微笑んで一礼し、『失礼しました』と言葉を残し退室するの背中をぼんやり見送った。
その背に「待って」とも言えない自分がもどかしいと思ったりもする。
僕の後ろのほうに控えていたジョシュアが声を潜めて笑う。
「…ジョシュア」
「なんでしょう?」
「減給1ヶ月」
「職権濫用ですよカイン様!それに濫用は私にではなくさんになされば良いじゃ…!」
「給料半額」
「も、申し訳ありませ…!」
「問答無用」
口を滑らせて笑い出したお前が悪い。
自分から行動を起こせない僕は悪くない、悪くないんだ…多分。
…いつか言えれば良いとは思うけれど、それは今じゃない。
今はまだ、この温かい居心地の良い関係のままで。
2005/04/23
あはは。拙作だ…。
紅茶っぽい配色をMariのいろえんぴつさま(リンク頁にてリンク)の配色ツールで作ったので、
作りたくなった小説。
紅茶=貴族=カインという公式が脳内であるのかないのか、迷わずカイン様で書きました。
…なんだかなあな仕上りです。今後要リベンジ。
タイトルに捻りが無いし、しかも安直で申し訳無い。
戻る