「貴方にも、名前はあるのでしょう?」
透けるような薄茶の髪を白いシーツに投げ出したまま横たわる女は、ぽつりと呟いた。
白く滑らかな肌は窓から差し込む月光で仄青く照らされている。その白く細い腕で、女は気怠げに髪をかき上げた。シーツをかぶっていてもわかる、しなやかな女性の曲線は、男の劣情を誘い、理性を奪うだろう。黄金の蜜が滴る甘い甘い林檎のように。
誘われたように、神は女の細い指先に触れた。
「唐突にどうかしたのか?」
問いながら、神の指は女の爪をなぞる。女の丸い爪はマニキュアを塗らずとも桃色で、それは随分と映えた。
爪に触れた神の手に指を這わせ、女は口の端をゆるゆると持ち上げて笑う。ルージュを引いたわけでもないのに紅い唇が、弓を描く。
男特有の武骨な指をなめらかな柔らな指で撫でて、女は静かに微笑んだ。
「貴方だって、人だったでしょう」
こんな学校があるくらいですもの、と、女はわざとらしい敬語で問いを重ねる。女の左手の指は、空に“G”の文字を書いていた。
神は微かに目を伏せ、
「ああ……そうだな」
とだけ、返答した。
「気乗りない返事ね」
「……名を呼ばれなくなって、久しいからな」
名など忘れてしまったよ。
神の言葉に、女は目を細めた。微笑みではなく、非難を示すように。
「……もし、よ。もし次の入学者の中で次の神が決まって、位を譲ることになったら」
貴方は名前も無いまま自らの名前を渡してしまうつもりなの、と言おうとした言葉は、神の唇を以て遮られた。
「その先は言ってはならないよ」
「…… 」
神のその表情は、女の言葉をすべからく受け入れないということを如実に表現していた。
何かを誤魔化すような口付けが、ゆるり落とされる。
「……本当は呼んで欲しくて堪らないくせに」
合間に呟きが紡がれたが、神はそれを黙殺する。
「私は、貴方の本当の名前を呼びたい……呼びたいの」
目尻の涙を神は優しく拭ったが、とうとう、女の言葉には答えられなかった。
己の感情も、いとしい人の想いも、世界に要らないものならば、気付いてはならないのだから。
write:2008/01/29
up:2008/03/06
ぼくはガリレオ夢でした、お粗末さまです。ゴーギャンかオキタならまだ言い訳のしようがあるのに、神さまです。
しかもsneg?的設定のまま書いちゃったし。現場書いてないからいいよね……?
この設定はプロトタイプで、もう少し変えたら脳内連載設定になっちゃうんだけど……。
うん、近いうちにゴーギャンも書きたいなーなんて言ったら怒りますか? 怒られたって書きますが。
なまえのないかみさま