「ねえ、のと」
「何?」
「あんた、何してるのよ」
「わからないほど無知じゃないでしょ?」
「ええ。私が知りたいのは、あんたがどうして私を押し倒してるのか、よ」
問えば、私の視界を占める隠れ腹黒こと金沢のとはにやりと口角を上げて笑った。
ああ、見ていてむしゃくしゃする。
こいつのしたり顔は嫌いだ。
絶対に敵いはしないとむざむざと見せ付けられるような気がするから。
ブラック
妖しく笑むのとの顔は見ていて何か苛々してくる。
多分、のとに負けてこんな状況にいるから。
のとをどうにかして退かせられない自分に対して苛々しているんだと思う。
「どうしてだと思う?」
「わからないに決まってるでしょ。それより退いて頂戴よ」
「いやだね」
ああ、神様。
私はどうしてこんな状況に置かれているのでしょうか。
今の今まで神なんて居やしなさそうなもの信じて無かったけれど、今なら信じられます。
ああ、神様。居るならば私をこの状況から救い出してください。
どうせ無理だろうけどね。
居るなら、不幸なことなんてありゃしないんだから。
「のと。早く退いて」
「……、そんなに退いて欲しいの?」
「そりゃ勿論」
「じゃ、さっさとやっちゃうか」
退いてもらえるものだと思って気を抜いたのも束の間、のとの手が私の制服のリボンに掛かる。
声を出してそれを制する前に、リボンは音を立ててセーラーから取られてしまった。
私の顔の横に、それは落とされた。
非難するような目で、のとを見上げた。
「ど、退いてくれるんじゃないの!?」
「退くよ、これが終わればだけど」
「これって何する気よあんた」
その質問に対する返事は、無かった。
のとの顔が緩々と私の首筋に下りてきて、唇で白い肌を吸われる。
ちく、と一瞬痛みと何かが背筋を走って、首筋に赤い鬱血痕が出来た。
「ちょっとのと!さすがにこっから先やったら犯罪よ!」
「うるさいなぁ」
「っ!ちょっ」
唇が、塞がれる。
唇がすぐ離れたりするようなものじゃなくて、深くまで吸い尽くされるような。
一瞬、気が遠くなりそうになったけれど、すぐに気を持ち直した。
のとの舌を、噛んだ。
驚いたような表情を浮かべて、のとは唇を離した。
「何?そんなに嫌なの?」
「嫌とか、そういう問題じゃないでしょ」
のとの口の端に赤い血が微量ながらも付着していた。
少し申し訳ないと思いながらも、自衛の手段だったのだ、しかたあるまいと自分に言い聞かせた。
「がそんなに嫌がるなら…ま、今日はこれで勘弁してあげようかな?」
「今日はってどういうことよ。今後またこんな目にあうってんじゃないでしょうね」
「別に今すぐ続きやってもいいんだけど?」
「ごめんなさい勘弁してください」
のとの指が妖しく動いて、首筋を撫でられる。
焦って謝罪の言葉を言えば、したり顔ののとが視界を占める。
ああ、やっぱりのとのしたり顔は嫌いだ。
絶対に敵わないと、再確認させられるから。
「残念」
そう言ってのとは私の上からやっと退いた。
遅いんだよ、もっと早く退いてくれよ。
と思ったけれど口にはしなかった。どうなるかは手に取るように想像できるので。
「じゃーね、また明日」
のとはひらひらと右手を振って保健室から出て行った。
その右手には、私の制服のリボンが―――――ってちょっと待て。
「わ、私のリボン…」
予備のリボン、買ってたっけ?無かったら若桜ちゃんにでも貸してもらわないと。
……なんか、どっと疲れた。
溜息交じりにそう考えて、ベッドから身体を起こす。
何故か北工の保健室にある全身鏡を覗き込むと、首筋に鎮座する赤い痕が目に入る。
脳裏と肌に蘇った記憶とのとの唇の感触を頭を振ることで忘れようと努める。
顔が、熱い。
「どうやって隠そう…セーラー服って首回り隠せないのよ…」
鏡の前で、またもう一度溜息をつく。
そして、当人の前では絶対に言えない言葉をひとつ。
「あのバカのとめ…」
悔しいから、絶対に続きなんてやらせてやんない。
心にそう決めてみるも、きっとそんなの無理なんだろうなあと考えてしまう自分がちょっと、憎い。
2005/01/30
黒のと様夢。ちょっと書きたかったんです。
でも黒のと様の口調は全然わからない。オリキャラ入ってるような気がするし。
似非のとでごめんなさい。楽しんでいただければそれ幸いです。
ヒロインちゃんはいつ最後まで食べられてしまうのでしょうか!
そこからのお話はあなたの心の中で…
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