「ねーねーグレイー」
「…なんだ、
「一生のお願いっ!わたしに、リエナちゃん頂戴ッ!ねー?」


そう言ったら盛大に音を立ててグレイにぶたれた。
痛い。絶対、絶対に後で腫れる。それはもうとても赤く腫れる。
グレイが後で後悔するくらい腫れる。
「この人私に暴力振ったんです。婦女暴行です」って訴えれば絶対勝てそうなくらい腫れる。
絶対。……多分。










ザ・争奪戦










「痛い!婦女暴行で訴えるぞ、この犯罪者め!」
「誰が犯罪者だ!叩いただけだし、更に言うならおまえが変なことを言うからだろ!」
「変なことじゃないもーん本気だもーん!」


そう言えば、グレイの(ある意味)愛用武器の、ハリセンで強かに打たれる。
次はきっと痣じゃない。きっと、多分、大きなたんこぶができる。
うわっ!想像しただけで物凄く痛いよ!全身内出血だらけじゃん!痛い。


「痛いって本当に。私一応染色体XXなんでー生物学的には女の子なんですよー」
「…わかった、だから怨みったらしい目ともう既に腫れかけの頬を俺の目前5cmに出すな」
「ほんと?わかってくれた?」
「ああ、わかったわかった」
「やったー!これでリエナちゃんは私のものー!」
「……待て」


地の底まで冷えたようなグレイの声は予想以上に大きく響いた。
結構遠くでタメゴローと戯れていたヤマトが正座して止まってる。


「いいじゃない、頂戴よリエナちゃん」
「だめだ」
「なんでー?」
「あれは、俺のだ」


…背筋に、寒気が走った。
グレイの形相が羅刹だったからとか、声に怒りが込められていたからとかじゃない。
……グレイの表情が、色男だったとは思えないほどに歪んだからだ。
これはなんかよからぬ「エヘヘヘヘヘ…」な想像をしているに違いない。


「なにさ!兄弟姉妹間での結婚は許されてないじゃんか!
 子供も奇形児が生まれる可能性が高いでしょ!シャム双生児とか!」
「な…っ!」


あ、今、「何故俺がそんな想像していることがわかるんだ」って顔した。
ごめんグレイ、あんた、物凄くわかりやすい。顔に普通に文字が書いてあるみたいにわかる。
それにしてもわたしの観察眼も捨てたもんじゃないねー。


「お、女同士だったら生産性皆無だろ!」
「愛があれば子供(という名の邪魔者)はいらないでしょ?」
「そしたら俺たちにも子供はいら」
「だって兄弟じゃ結婚出来ないし?私とリエナちゃんなら国さえ飛べばオールオッケー」


そう言ったら、グレイはぐっと一瞬言葉に詰まった。
そして、敗北者の体勢…要するに四つん這いの体勢でグレイは地に平伏せた。
……私の勝ちーっ!
よっし、今の内にリエナちゃん連れて他の国に海外逃亡をば…。


「待て、
「んぎゃっ」


足首を掴まれ顔面と床がこんにちは、だ。
頬と、頭と、額。
今日一日で何回私に怪我を負わせるつもりなんだグレイよ。
まさかこれで私とリエナちゃんを引き裂こうとでも言うつもり…!


「なんなのさ!痛いっちゅーの!」
「俺たちは大切なものを忘れていないか!」
「――で?」
「リエナ自身のココロ、だっ!」


ぐっと握り締めた右手を高く掲げ、グレイはそれはもう爽やかーな笑顔で言ってのけた。
リエナは俺のことが大好きだ、、お前に勝てるか?――って目がわたしに言ってる。


「はいはい」
「何だその気の乗らない返事は!まあ別にいいけどな!リエナーっ!」


グレイの不気味なほどに元気な声に呼ばれて、リエナちゃんが上の部屋から下りてきた。
それを見たグレイの顔が、笑顔の、変態のような顔に歪んだ。
……なんか見てると切なくなる。


「リエナ!俺と、の、どっちが好きだ?」
「は?お兄ちゃんと、さんの…?」
「どっちが好きだ?」


グレイがリエナちゃんの目前3cmまで寄って問い掛ける。
そして、リエナちゃんのジャッジメントがおちるまで、あと――。




さんに決まってるじゃない。さぁん!」
「リエナちゃあん。私、リエナちゃんのこと大好きよー」
「私も大大大好きですー」




グレイが、その場に崩れ落ちるのが見えた。
でもそんなの無視してリエナちゃんと抱きしめあう。
目の端に、風化したグレイが見えたけど、気にしない。
リエナちゃんが「うぜーんだよシスコン野郎」って言ったような気がしたけど気のせい気のせい。
あー、リエナちゃん、ほんと大好きー。





2005/03/14
とても書いてて楽しかったです。グレイと、リエナちゃんの争奪戦。
内出血だらけのヒロイン。ありえない。血の気多すぎ。(苦笑まじり)
このすぐ後にリエナちゃんに手当てしてもらったと思います。痣とたんこぶ。
そして、多分次の日あたりにグレイが菓子折り一緒にぺこぺこ謝ってます。
自分の所為で顔中怪我だらけですから。
ほんのちょこっとリエナちゃんが黒かったり、グレイが阿呆っぽかったりしてます。
いや、本当に書いてて楽しかったです…。

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