ー。今度一緒にKURD見に行かない?」
「クルドってイスラム教徒の遊牧民よね?うーん、ちょっとご遠慮かな。
 あ、駅前に新しく出来たケーキショップってそんな名前だったっけ?なら行きたいなー」
「KURDはね、この辺じゃちょいと名の知れた結構有名なバンドなの」
「…じゃあ不味いの?むしろ猫の味?」
「んー…美少年を摘み食いするのが趣味なのうふふって感じの人には美味しいものかも」
「なんだ、つまんないの」


『私は色気より食気よー』と付け足して、持っていたポッキーを一本食べる。
じと目で私を見る菫の視線は気にせずにもう一本私はポッキーを食べた。


「お願い、。一人で行くのは恥ずかしいの!一緒に見に行って?」
「…TOPSの生チーズが食べたいなー」
「わかった、絶対買ってに届けるから…」
「ハーゲンダッツのリッチミルクつけてくれたら絶対一緒に行くのになー」
「買います買います!TOPSの生チーズとダッツのリッチミルクでしょ!」
「うふふ、交渉成立ー」


にっこり微笑んで菫に向き直る。
さあさ、で、そのKURDとかいうのを見に行くのはいつなの?











The last resort











「これ変な格好じゃないよね?」
「うん、十二分に可愛いよ。私が男だったら掻っ攫ってるね」
「あ、ありがとう」


なんかあの後話をよく聞くと、菫はそのKURDっていうバンドのボーカルさんが好きなんだとか。
で、少しでもその好きな人に近付きたいからバンドのライブに行きたい。
でもひとりじゃ恥ずかしい…!だから私を誘ってライブへ行こうとした、と。
菫ってば青春やってるなあ。
いくら色気より食気が勝る私云えど女の子。御多分に洩れず恋愛話は好きだとも。


「そのボーカルさんって、どんな人?」
「えっとね、カッツさんっていうの。確か花巡商業の三年生」
「カツ!?豚カツさん?な、なんて素敵な名前なのー!」
!ちょっと飛ばないで!カツじゃなくてカッツさん!」
「…なんだ、違うのか」
「当たり前でしょーが」


ライブハウスに向かって菫と一緒に歩く。
そういえば、ライブハウスなんて初めて行くなあ。
私、お金払って曲を聴くくらいなら美味しいもの食べたほうが良いよ精神に則ってるから。


「ここ?」
「うん、そう」
「…なんかジャガイモを水洗いする為に桶に一袋全部ぶちまけましたーって感じ…」
「…人がいっぱい居るねって言ってるんだよね?」
「そうだよ?」
「なら良いんだ。うん」


いや、ほんとにいっぱい居過ぎでしょ、これは。ここだけ人口密度高すぎるから。
前に読んだ本にあった、実際住める土地の面積で出した東京の人口密度は8.7人/1平方m。
多分、ここだけそんなくらいの人口密度だよきっと。


「あ、開場した。、行こー」
「うん…」


なんか早速周りに圧倒されてます。許されることなら、今すぐ帰りたい。
(菫からお菓子せびらなきゃ良かった)


 * *


「うわー凄かった…今のがクルド?」
「ううん、次がKURDだよ」


そうか、違うのか。次の人か、菫の想い人は。
しっかり観察してやろーっと。


「菫の好きな人じっくり見てあげるからねー」
「ちょっと止め…あ、出てきた!ほら拍手!」
「え、あ、うん」


――ここが、一瞬の静寂に包まれた後、爆発しそうなほどに大きな歓声が上がった。
…凄い。一本芯が通ったような強い歌声。
その強さを助長するような、でも確実に負けてないバックの演奏。
見るもの全てを魅了し惹きこむように、強く逞しい。


「……凄…」


私の小さな感想にも、菫はもう反応を示さなかった。
幸せそうな瞳は真っ直ぐにマイクに向かって強い歌声を放つカッツさんに向けられている。
私もそれに倣って真っ直ぐと彼らに視線を向けた。


不意に、ギターを演奏する人と目が、合う。
何かが、背筋を走ったような気がした。


「……あ、」


心臓は、まるで警鐘のように早鐘を打つ。心拍数上がり続ける。
顔が火照る、体が火照る、肌が赤くなる。
肌が、熱い。
咽喉がひりついて上手く声が紡げない。

周りの喧騒はまるで私と別世界で繰り広げられてるような気が、した。


視線が、交わる。


足が、言うことを聞かない。
自分の体重を支えていられなくなりそうな感じがした。



何時の間にか、演奏は終わっていたけれど、その演奏の余韻はまだ体に残っていた。
演奏のだけじゃなくて、あの、ギターの人を見て感じたことも、まだリアルに残っていた。


「凄い良かったねー…あれ、どしたの。?」
「……あ、」
「大丈夫?」
「……うん」
「どこかでご飯食べてこっか?」
「…そうする」




後から菫から教えてもらってわかったこと。
それは、あのギターの人が府内西丸さんというらしいということ。





2005/03/21
うわー!うわーうわー!何これー!
恋愛というかヒロインちゃんがノマルに惚れるまで?
……ヒロインちゃんとそのお友達さんのお話のほうが色合い強い…。
もし続編を書くとしたら、やっぱ恋愛に持っていったほうがいいのかなー…。
アンケートでノマルとの夢が読んでみたいとの回答があったので作ってみました。
人間の肉の味は猫の肉の味に似ているらしいので『むしろ猫の味?』と言わせてみました。

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