スカーレット








「閃ちゃんは、かわいいね」


 閃ちゃんのふわふわな髪の毛をくるくる撫でながら、私は言った。太陽の光をあてるときらきら光って見える黄色めの髪は柔らかめ。私は閃ちゃんの髪を梳くのが大好きだ。あわよくば結んだりもしたいけれど、その後の閃ちゃんの不機嫌を考えるとやらないほうがベター。
 閃ちゃんは私にされるがまま黙っていたけれど、私の言葉を聞いて眉を顰めてた。いつも、「可愛い」とか言うと、閃ちゃんは不機嫌になる。本当のことしか言ってないのに。


「俺は女扱いされんのが嫌いなんだよ」
「……あれ? 私、口に出してた?」
「顔を見ればわかる」


 つーか、今日は調子良いからの考えてることなんかすぐわかる。
 閃ちゃんはそう付け加えて、私の頭をぽひょぽひょとマヌケな音を立てて叩いた。紙が少し乱れてしまったけれど、閃ちゃんの手が優しくて心地好かったから、私はその感触に目を細めた。


「閃ちゃん」
「ん?」
「――なんでもない、よ」


 縁側に投げ出した足をふらふらと動かした。足に引っ掛けただけだったサンダルがころんと足先から転がっていく。私も閃ちゃんも、そういうのを気にするタイプじゃない。サンダルが飛石の横に無惨に落ちたのを無視して、私はこてんと体を後ろに倒した。
 隣にいた閃ちゃんが、呆れたように溜息を吐いた。



「はいはーい?」
「腹出てる。仕舞え」
「見えるの閃ちゃんだけだから問題無いよー」


 また閃ちゃんの溜息。そして、閃ちゃんの指が私の首の辺りをくすぐった。こそばゆさを感じて思わず身を捩ると、ちくりと肌が切れる感覚と痛みが脳まで到達した。


「――痛っ」


 思わず跳ね起きる。閃ちゃんは私の声に驚いたのか、腕を引っ込めた。


「あ、悪い。動くとは思ってなかった」
「うー。すぐ回復しちゃうから良いけどさ」


 どろり、と。首から血が一筋流れていく。そのぞわりとするような感覚に、私は短く息を吐いた。
 こんな小さな切り傷なら、三分もあれば塞がってくれるだろう。私は傷口に指を触れて確認することもせずに閃ちゃんの顔をじっと見つめた。私から視線を逸らし、気まずそうに視線を彷徨わせる閃ちゃんの手を掴んで、私は言う。


「大丈夫だから」
「……」
「こんな傷、私にしてみればどってことないから。閃ちゃんだって、知ってるでしょ?」


 人とは異なる存在。人と交わることが極端に困難で、格別に難しい。――私も閃ちゃんも、そんな存在。言外に乗せた言葉に、閃ちゃんはきっと気付いただろう。
 そっと手を放す。閃ちゃんの指は、半分だけ乾きかけた血を拭ったあと、そっと痕跡に触れた。


「……
「なあに?」


 ゆっくり言葉を選ぶ閃ちゃんに、私はいつも通り緩い顔で微笑んだ。一瞬だけ目を瞑って、すぐに目を開いた閃ちゃんは、私を真っ直ぐに見ていた。


「少し浅はかだった。悪い」
「ううん。私が動いちゃったから」


 そっと首を横に振る。閃ちゃんの指が、傷痕を撫でた。


「もう、塞がったな」
「本当? 良かった」


 すうっと離れていく指先に名残惜しさなんかを感じて、私はさっきまで閃ちゃんが触れていた部分に指を宛がった。カサブタすら残ってない、何時もと同じ首。
 私は傍らに放っておいた湯飲みをひょいと持ち上げて、一口お茶をすすった。もう温くなってしまったそれを、かたんと音を立ててまた元の場所に戻す。


「ねえ、閃ちゃん」
「……何だよ」
「好きだよ」


 一時の間を置いて、真っ赤になった閃ちゃんにぎゅっと抱きついて、私はもう一度言葉を重ねた。――ねえ、私の本心、通じるでしょ?


「閃ちゃん、だいすき」





2006/05/25
やっちゃった! 閃ちゃん夢!
まあ、性別どちらでも大丈夫なように作ったから、もし仮に男でも大丈夫だよね……。
私は閃ちゃんおなご派です。私には、あの言動から男を見出す事ができません……。某大型掲示板での討論に明け暮れる日々。
そろそろ結界師をメインジャンル化しようと思ってたりします。うふふ。
結界師狙いで来てくださってる人なんて滅多にいないだろうけど。自給自足ですから。
それにしても、おかしいなぁ。テーマは『レッツセクハラ☆』だったのに。――あれ?

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