「ほんと今日は恋人量産日ね。そわそわして。ウジウジしてないでさっさと渡せば良いのに」
「馬鹿だよねぇ。牧師が血塗れになって死んだ日に恋遊びなんてさ」
「前から恋仲の人はクリスマスに次ぐほど甘い一日を過ごすんでしょうね」
「何?が甘い夜をご所望ならしてあげてもいいけど?まあ優しく出来るかは要相談?」
「所望してないから妖しい顔して首撫でないでもらえる?」
「つまんないの」


のとの手が妖しい。
好戦的に笑んで口の端を舐める仕種が妖しい。
そんなことを言っちゃったらのとのすべてが妖しいことになるのでこれ以上は言わないけど。
この挑戦的な笑いが、少し憎たらしい。










ブラックレガート











「いい加減良いじゃん」
「嫌。のとの玩具になるつもりは毛頭無いわ」
「大切に愛玩するよ?」
「のと、飽きるの早そう」


そう言って適当に買ってきたクッキーを口に放り込む。
チョコチップクッキー。バレンタイン当日だっていうのにもう割引セール中の品。
この辺、ちょっと大人の世界よね。
本番よりもそこに至るまでのほうが楽しいっていうのはこういうのの所為なのか?


「そう?にはそう簡単には飽きないと思うけど」
「のとは自分のこと良く理解してる?自分のものになった途端、全然構わなくなるでしょ」


ひなじくんとか、と付け加えるとのとはいかにも楽しそうに笑った。
そこには少し嘲笑も入っていたように感じたのは気づかなかったことにする。
さすがにひなじくんが可哀相だ。むしろ憐れ。


「だって反応似たり寄ったりで新鮮味に欠けるし」
「ひなじくんなりに必死なんだからそれはちょっと酷いんじゃない?」
「関係無い」
「キッパリ言うのね…」


キッパリはっきりとのとは言ってのけた。
脳裏には「うきゅーん」だの言ってる、それなりに必死なさいたま少年が浮かんでは消える。
ひなじくん、報われてないよ。全然、報われてない。全く報われてない。
可哀相でならない。

多分、あんなのとを好きになったひなじくんの運が無かったんだ。
あんなのとを好きになったひなじくんの女(男?)運が無いんだよ、多分、きっと。

ひなじくん、いつか君も報われる。
きっといい人見つかるよ。
だから早くのとに見切りをつけて、かわいい女の子でも探して見つけて頂戴。
それが君のためよ、ひなじくん。


「何余計なこと考えてんの?」
「…っちょ、の、のとっ!」


のとの手付きが妖しくなって、私の首筋を下から上に撫であげる。
背筋に、ぞくっとした何かが走る。宛らそれは電撃のよう。
のとの目が、餌の草食動物を目の前にした肉食獣のように強く光って見えた。


「どうせひなじのこと考えてたんだろーけど」
「だ…から、ちょっと。止め、」


強くて、ぎらぎらとした光が宿った黒い目に、真っ直ぐとした視線に、射られる。
言葉を途中まで言い掛けて、そこで止めた。止まった。言えなかった。
眼光人を射るって、こういうこと言うんだ……。
ああ、こんな強い目なんか嫌い。――何も、出来なくなる。


「余計なことなんか考えんじゃないよ、
「のとごめん、だからちょっとやめ、」
「謝罪と誠意は、モノもしくは行動で示してくれる?」


のとの手が制服のリボンに掛かって解かれる。
気のせいでなければ、こんな光景、前にも見たような…既視感…?


「モノで示す、から、やめて。…ください」


最後に敬語をつけてしまうのはのとの機嫌を損ねないためだ。
損ねでもしたら本当にそのまま私の純白が奪われかねない。


「そう、じゃの体で謝罪を示してもらおうか」
「待って!じゃあ行動で示すわ!」
「じゃあやらせてもらうかな」
「なに、選択肢は有るようで無いの!?」


はっと気付けば、のとの躰に組み敷かれてる。
すぐ上にあるしたり顔ののとを今出来る限りの表情を取り繕って睨みつける。
多分、迫力も何もあったもんじゃないんだろうけど。
のとの指が、すっと首を撫でる。
声にならない声が、唇から紡がれた。




「……愛玩してあげるから、僕のモノになりなよ。――




のとが勝利を確信したものだけができる笑みで笑うのを、見るだけしか出来なかった。





2005/03/12
バレンタインディネタで書いていたんだけど別にそんな設定無くてもいいかな。
またまた黒のと様。
全然キャラクターが掴めないよう……!
いや、でも日丸屋さんのほど黒いのと様を相手にしたらヒロインさん体保てそうに無い…。
……ははは。
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