怪 我 の 名 ?







 暇そうにテレビを見ているのとの横で、私は深い溜息を吐いた。溜息を吐きながらも、宿題である裁縫を止めることはしなかったが。
 明日提出の家庭科の宿題。その存在をつい先程まで忘れていた私は、大慌てでそれをやり始めた。
 大して器用でもない私がそれを早々に終わらせることが出来るわけもないので、今晩は徹夜だろうと私は腹を括った。
 私に『宿題は明日提出だ』と現実を突きつけたのと当人は、焦る私なんてどうでも良いよと言うように、我関せずを決め込んでテレビを見てる。
 ああもう! 自分は宿題が終わってるからっていい気なもんよね! 羨ましいわ!


「……いたっ」


 のとのほうに気を取られていた(というより、恨み混じりの視線を向けていた)ために、縫い針でうっかり自分の指を深々と刺してしまった。うわあ痛い……!
 すると、声に驚いてなのか、気だるそうにのとがテレビから私に視線を動かしてきた。


「大丈夫?」


 言葉は(わざとらしくではあるが)心配そうにしてるけど、目は笑ってるわよ、あんた。
 こめかみのあたりが痛むような気がした。


「……平気」


 と言って、指を持ち上げる。するとぷっくりと赤色がドーム状になっていたのが崩れて、どろりと血の筋が指に描かれていった。
 溢れる溢れる真っ赤な色。


「大丈夫じゃ、ないでしょ?」


 笑いながら、のとが身体をこっちに向けてきた。ああ、その企んでるような笑顔、嫌いだわ。
 傷から流れた血を拭おうとしていたらひょいと指を拾われて、そのままのとは私の指をくわえた。一瞬で赤くなってく私の顔。


「ちょ……っ、のとっ!」
「……苦」
「あ、あたりまえじゃない」
「ま。わかっててやったんだけど?」


 のとが楽しげに笑う。そのままぐいと私の手を引いて、ちゅ、と音を立てて頬っぺたに口付けた。
 唇にされるとばかり思ってた私は、思わず目を丸くしてしまった。


「……口だと思ってた?」
「……っ! ちが」
「ま、結局どっちにもするけど」


 その言葉を脳が処理する寸前に、唇が塞がれた。
 心臓が壊れてしまいそうだと思うくらい、心音がはやくなる。息の仕方を忘れそうになるくらい、溺れる。
 唇が離れて、のとの目が私をまっすぐ射る。


「……


 熱っぽい声が、名を読んだ。





2006/03/11
のと様が書きたくなって衝動的に書き殴ってみました。
もう、本当にのと様大好き……! 書き易いか書き難いかで言ったら、勿論後者だけど……。
針って想像以上に奥深くまで刺さりません? 『針刺さっちゃったけど血は出ないでしょ』と思ってたら結構出たりして吃驚したり。
……しませんかね。しませんか?
ていうか、このヒロインさんは結局宿題を終わらせることが出来るんでしょうかね……?

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