「え、富山くんってホモセクシャルなの?」
「ああ、認めたくは無いがな……あの野郎入善を唆しやがって……」
「あ、で、お相手さんは?一方的な想いだったらまだ望みありよ、若桜ちゃん」
「あの金沢のとだ」
若桜ちゃんの言葉を聞いて、一瞬世界が真っ黒になった気がした。
富山くんにのとは本性(ていうのか、腹黒さ?)を見せてないから、確かに唆せるかもしれない。
いや、のとなら絶対ねんごろの仲に出来る。あの男ならできる。
かわいいかわいい羊の皮を被った真っ黒な狼なら。
…訂正。
真っ白な子猫を十数匹飼い馴らす腹黒策士のあののとなら。
あいつなら、絶対。
ブラックヌガー
「ああ、うん、簡単に想像できる」
「想像をするな、入善はあんなやつの毒牙にかけはしない」
「…そーね、掛かっちゃ困るわ」
のとに気に入られたら多分まともな道歩めなさそうだしね。
あの生真面目な富山くんには常人道を歩んでもらわないと色々と困ると思う。
この学校は変態、異常愛育成高校かって話よ。
「――まあ、ここまでの話でわかったと思うがー」
「んー?」
珍しく若桜ちゃんが奢ってくれた杏仁豆腐を掬ったスプーンを咥えたままで返事をする。
まあなんとも気の抜けたマヌケな返答ですこと。
目の前で笑む若桜ちゃんから、なんか邪な空気を感じるのは気のせいか?
きっと、きっと気のせい――
「、のとはお前が食い止めろ!」
「はあああ!?私、人身御供?のとがこれ以上暴走しないためのお供え物?」
「むしろ人柱」
「もっと性質悪いわよ!考えてもみてよあんな腹黒策士で性格悪ーいあやつを私が止められるわけ…」
そこまで言いかけて、私は言葉を紡ぐのを止めた。
止めたというよりも紡げなくなったと言うべきか、なんというべきか。
背後から迫る恐怖の、無言の圧力に、私は負けた。
「ちゃん?何の話してるの?」
で、出た!
出たよ、かわいいネコミミ猫尻尾付きねこみみもーどヴァージョンののと!
もっとわかりやすく言うなら猫被りモードののとが、私にしかわからない無言の圧力を私に浴びせる…。
ど、どうしよう。のとのこととか考えないでたくさん暴言吐いちゃったよ。
あいつのことだ。多分会話の初めから聞いていたんだろう。
苛める良いネタができた辺りで話し掛けて話を中断させたんだ。絶対そうだ。
なんて非情な奴なの、金沢のと!
「ちょっと話したいことがあるんだけどいい?…ちゃん?」
「ハイ、カマイマセンヨ…」
『ちゃん?』と疑問系で終わらせておいて何なのよ。この有無を言わせないぞオーラは。
その気迫負けする私が少し憎い。つーかものすごく悔しい。
でもどんなに足掻いても、のとに勝てたためしは一度もない。
* *
「…で、?誰が腹黒だって?」
「……」
「腹黒策士、性格悪い――だっけ?」
のとの言葉に返答できない。
してしまえば最後、揚げ足取られて逃がしてくれない。
私に出来ることは、逃げる機会を窺いつつのとの機嫌を損ねないことぐらい、だ。
「それって僕のこと?」
「………」
「なあに?だんまり決め込むつもり?」
はい、その通りです。
心の中でのとにそう返して私はやはり黙って時を遣り過ごそうとする。
はあ、とのとがあからさまな溜息を吐くのが聞こえた。
「言いたくない――って言うなら詮索はしないであげる」
「本当?」
「貸し1で」
「……了解」
のとに借りを作るというのは非常に不本意。
だけど、言わずに済むならそれに越したことは無い。
私は今後の自分に想いを馳せて小さく溜息をついた。
それを見たのとの目があたかも楽しげに微笑まれる。見ていて苛つく、勝者の笑みに。
「まーまずはを僕の従順な奴隷に――」
「たったひとつの借り如きでそんなもんになるわけないでしょ」
「面白くない」
「まだ、穢れたくないもの。当然でしょ?」
「…できることなら、今すぐにでも染めたいんだけど」
射られる。
強い目に。その目に。
胸を強く強かに打つその強さ秘めし目は、ただただ真っ直ぐ私を見ていた。
「――ッ!」
のとに連れられて来た屋上から階段二段飛ばしぐらいの猛スピードで階段を駆け下りる。
あの場にあのまま居たら。
絶対に、のとの思うまま。
目に捕らえられて、ろくな抵抗もしないまま――
ただただあの強い目から逃げて。
2005/03/13
何ゆえか書き易いんです。黒のと様シリーズ。
今回はなんでしょう。若桜ちゃんとのお話?
ヒロインさんは若桜ちゃんのお友達です。
今回は際どい描写が無いですね。ビックリ。
あはは…
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