切欠はほんの些細な、日常の一瞬だったはずで









あのから浮かぶのはいつも決まって










「はあ…」


深々と盛大な溜息。
先日KURDというバンドのライブを見に行ってから、赤面症になったんじゃないだろうか。
若しくは林檎病。
…と思うくらいあの日を思い出しただけで顔が熱くなる。
そんな自分のことを思って、私は思わず溜息をついた。


「どしたの。盛大な溜息なんてついちゃって」
「うんまあ色々よ…菫はどうなの?カツさんとは」
「あんたねー進展があるとでもお思いで?あるわけないでしょ」
「…例えるなら向こうは芸能人でこっちは一ファンだもんね」
「イエス。それで発展あったら泣いて喜んじゃう」


確かにー、とそれに返答して、私は○リッツの最後の一本を食べた。
菫が私も食べたかったのに…!と悔しげに言うのを見ながらそれを飲み込んだ。
そして、それと同時に放送のスイッチが入る音が聞こえた。


『生徒の皆さん、最終下校時刻となりま…』
「え、もう?じゃーどこか寄ってから帰る?」
「うん、そうしよー…甘いもの食べたいー」


私たちは生徒指導の先生に見つかる前に、といそいそと帰る準備をして玄関に走った。
見つかっちゃったら今まで演じ続けた真面目ちゃんのレッテル剥がされちゃう。


 * *


人込みの中を呑まれないように歩く。
過去に二人とも人込みに飲まれてあら大変!だったことがあるから。


「ねえねえ。あそこにいるのバルヨナ海青水産の人じゃない?」
「あーあの不良量産高…女子制服可愛よねー。でも着てる人見たことない」
「噂を聞く限り、共学のクセに男子高化してるって話」
「あはは、高校での恋愛劇はほぼ不可能って訳ね。可哀相に」


そう言ってバルヨナの人たちを盗み見る。
んー。不良らしくない可愛い顔立ちしてるのに、あの団体さんは。
あの帽子のちょこまか動き回ってる子も可愛いなあ。
で、その帽子の子を止めようとしてる人も………!!

え、ちょっと待って。
あの人。あの人ってさ…!


「菫、あれ!…KURDのギターさん…じゃ、ない?」
「えーどれ?」
「あのバルヨナ団体さんの中の170cmぐらいの人、違う?」
「あー!そうだよそうだよ!KURDのギターだ…」
「うわあ…こんな場所で見るなんて思わなかった…」


……あの日の、感覚が蘇る。
立っていられなくなるような感覚とか、高鳴る心臓とか、全部全部。
全てを綺麗なままに、あの日の感覚をそのままに色褪せず――


、握手してもらって来れば?」
「ええ!ちょ、そんなの無理に決まってんでしょ…!」


狼狽して両手を振り回していると、菫に「良いから行っとけ!」と背中を押されて押し切られた。
酷い、私は遠くから見つめてるだけでいいのに…!

恨みったらしい視線を菫に送るけど『頑張れ!』と口パクで言われただけだった。
私は腹を括って、目の前の府内西丸さんに話し掛けた。



「…あ、あの、KURDのギターの府内西丸さん、ですよね?」
「え、ああ。そうだけど」
「私ファンなんです。握手、してもらえませんか?」


ダメかな、と思った。だって目の前の府内さんちょっと驚いて困惑してたように見えたから。
でも、帽子の子が、府内さんに
「ノマルモテモテやん。ええやんか、握手ぐらいしてやりぃよ」
と言ったのを聞いて、府内さんは私の右手を取って握手してくれた。


「あ、ありがとうございます…!」
「いや、こっちこそさんきゅ。これからもKURDをよろしく…えーと」
「あ、 です」
「…サン、これからもKURDをよろしく」


そう言って府内さんは歩いて行った。
帽子の子がこっちに手を振ってくれて、私は小さく手を振り返した。


「よかったね、!」
「……………」
?どしたの?」


急に、ぼろぼろと涙が零れた。
嗚咽は出なかったけど、ほろほろほろほろと目から涙が引切り無しに落ちてくる。
菫が、優しく頭を撫でてくれた。


「感動して泣いちゃった?違う?違うのか。まあ良いや。落ち着くまで泣いちゃって良いよ」


嬉しい。
嬉しさが溢れて止まらない。
ああ、そっか。

私、府内さんが、好きなんだ。
きっと、はじめて会った――あの日から。





2005/03/25
タ、タイトルと進んだ方向性の…大きな相違が…あの…。
まあ良いや!(ドンっと堂々開き直り)
The last resortの正統派続編。冗談。まあ普通に続きです。
単体でも読めないことないけど読んだほうがいかな。
…やっとノマルとヒロインさんが会話したけどこれじゃあちょっと…
今後とも頑張ります。はい

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