曖昧に笑む
この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか
「ねえ、リー」
「……」
「…リー?」
「……」
「リー・ユンファ。返事をして?」
「……」
きっと、さんは僕が返事をするまでずっと名前を呼び続けるつもりだろう。
でも僕は返事をしない。
その名を呼び続ける声を聞いていたいから、とかそういった邪な願望も無きにしも非ず。
だけれど、本当はさんに対する罪悪感とかで押し潰されそうになることから逃げるため。
僕たちはあの時、さんの自由を根こそぎ奪った。
狭いまるで鳥篭に押し込み閉じ込め、自由を奪った。
それでもさんは楽しそうに笑って毎日を過ごしていた。
……それを見る度に、いつも罪悪感に苛まれる。
一緒に会話をすると、その罪悪感は見るのよりも大きく感じられた。
「返事して、――リーちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶのはやめてください!」
「リーちゃんが返事をしないのが悪いの」
「……すみませんでした」
「うん、別に良いよ」
そう言ってさんは笑う。
ひどく美しく、残酷に。
綺麗な声が僕の名を呼ぶ。
それはまるで、僕は罪から逃れられないと言われているかのようで。
……それは、僕を酷く苦しめる。
「…で、何かあったんですか?」
「どうして?」
「さんが、僕の名前を必要以上に呼ぶからですよ」
「ああ、リーとお話ししたいなと思って」
「…何故ですか?」
「だってリーとはここの中だと一番長い付き合いでしょう?世間話するのに向いてるかなって」
ウェンも長いけど、ウェンは全然ニュース見ないから論外。とさんは補足した。
…確かに、兄さんはニュースなんか見ないし見たら見たで確実に途中で寝る。
だからといって、僕はいちいちさんと世間話する気にはなれない。
何より、話せば話しただけ罪悪感が胸を占めていく。
自分からそんな状況に身を投げたくはなかった。
でも。
……それでも、さんにそれを悟られるわけにはいかなくて。
「…そうですか」
「うん、リーは最近の世界の動きで気になったことあった?」
「いえ特には」
「リー、兄にそういうところは似ちゃダメよ?あんな考え足らずになっちゃ困るからね?」
「…本当のことは言っちゃいけませんよ」
「リーも結構きついこと言うんだね」
「まあ、これが僕の性格ですから」
ただ、そんな罪悪感を感じていることを表に出さずにさんと話す。
それは僕が罪を償うためにすることであり、気付かれてはならないことである。
悟られてしまえば、さんは自分を責めるだろう。
……悪いのは、僕なのに。
だから、気付かれないように悟られないように。
僕はさんの前でいつも曖昧に笑う。
「…リーとウェンって、正反対だね」
「そうかも、しれませんね」
この笑みがさんをはぐらかせるのは、いつまでなんでしょうか。
2005/04/02
…お題初のヒロインじゃない人視点だ!凄い!
リー・ユンファ。兄より策士っぽそうな弟。目が可愛い。
ウェンはものすごい楽天家で阿呆だけど、リーは悩む必要もないことで悩んでそう。
…そんな夢。
リーにはさん付けで呼んでほしい…なんて欲望からできた夢…。
そして、思わずリーちゃんと呼んでしまうのは私です。
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