泣き顔だけじゃない、全ての顔が
なかしたい。ないてほしい、ぼくだけのために
「何が望みなの、のとは」
「知ってるくせに。…それともなあに?は僕の口から言ってほしいんだ?」
「…例え言ってもらっても叶えてあげる気は無いわよ」
「別に良いでしょ。生涯純潔を貫く巫女でもシスターでもないんだし、遅かれ早かれ人は…」
「生々しい話は止めて」
押し倒された状態でも、は怯んだりせず僕の顔を憎たらしいといった感じで睨みつけている。
そう、この叩けば二倍三倍になって帰ってくるこの感覚。
…この感覚。ゾクゾクするよ。
歯に衣なんか着せないし、猫だって被らない。
そんな、限り無く素に近い状態で話せる人はぐらいなもんだよ。
(ああ、もしかしたらひなじにもそうかもしれないけど)
「…意外と初心なんだ?」
「セクハラ魔にはこの心理、絶対にわからないわよ」
「へえ…セクハラ魔なんて思ってたんだ…心外だなあ」
「……」
そう言えばがぐっとつまる。
ヤバイと感じたのか視線を少しだけ外して思考を巡らせる。
は頭の回転が速いから、きっとすぐにどんな行動に出るべきか判断つけられる。
…少し邪魔しちゃえ。
わざとらしく音を立てての首筋にキスマークをつけてみた。
「――ひゃっ!」
「色気無い」
「その色気無い女に欲情して押し倒してんのは何所の誰なのよ何所のー!」
「色気無いのは『今の声』だけだよ、」
「…っ!」
「ほら、ね?」
つけたキスマークに舌を這わす。
の、肩がびくんとはねて顔が一瞬で紅潮した。
しゅるり、と音を立ててリボンを解く。
「ちょっ、の、ののののの、の、のと!」
「僕の名前勝手に改名しないでもらえる?」
「し、したくてしてんじゃないわよ!止めて!つーか退いて!」
さすがに身の危険を感じたのかからそれを制しようとする声が聞こえた。
ほら、すぐに理性を取り戻した。決して快楽に押し流されたりしない。
そんなをそのまま快楽に押し流したらどうなるのか見てみたい。
の全てを見たい。全ての表情を熟知したい。の全てを手中におさめてしまいたい。
「首まで真っ赤だよ、」
「…!あんたが、一部を…赤くしたんでしょ…」
「所詮、一部でしょ」
「一部でも、何でもいい…もう止めて…本当」
ぐったりとした疲れたような口調だった。
止めてなんかやるものか。
…というより、今まで我慢してばっかだったから止めれないっていうんだろうけど。
「やだよ。無理」
「ちょ、…ん、や、止め…」
「…イイ声」
赤く蒸気した頬。潤んでいる目。少し荒くなった吐息。
小さく震える指先。軽々と押さえられる細い手首。
全てが僕を掻き立てて、どんどん止まれなく、止められなくなる。
「のと…止めて」
声だけは震えずにいつもののままで。
潤んだ目でも僕を真っ直ぐに射抜いて睨みつける。
ああ、そうだ。例えどんなに僕のほうが優位でも、はいつもこうだった。
「ごめん、。もう我慢出来そうにない」
「え、ちょっと冗談でしょ…!?」
「…無理。ちょっと我慢してて」
の目が驚愕で見開かれた。
慌てるのを尻目に、僕は鎖骨に唇を寄せた。
の動きが一瞬止まって、体を硬直させた。
でもそれも一瞬で終わり、は体の力を抜いた。
「……?」
「隙有り!」
「…うわっ」
が抵抗しないのはおかしいと思い、少し隙を見せてしまったのがそもそもの間違い。
脚をはらわれて、バランスを崩してしまった。
その隙を狙ってが素早く僕とソファの間から抜け出した。
「…絶対に、あんたのものには、ならないわよ!」
息が乱れているけれど、しっかりとした強い口調。
扉の閉まる音が、予想以上に大きく響いて、一人取り残された。
見た表情。の全てが。全ての表情を。
そのすべてを、支配して手中におさめてしまいたい。
泣いて崩れる顔を見たい。
…泣かしたい。
の、全てが欲しい。
2005/04/08
……えー。えーと…あのなんでしょうこちら…あの…すみません…!
こ、ここまでとは思わなくて…。黒のと様シリーズ最強最上級のエロさの出来。
うっかりヒロインさんの「隙有り」の台詞を「のとならもういいよ」にしそうになりました。
他にも、泣かしたいを打ち間違えて『啼かせたい』のままにしそうになりました。
もう色々と申し訳無いです。
…今回もギリギリで一線越えませんでした。
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