雪の上に散る赤。
それはあまりにも美しすぎて、一枚の絵画のようだと他人事のように考えた。
鮮やかな赤は、あまりにも自分とは別世界のもののように思った。
肌が切られてそこから溢れ伝う血が、またひとつぽたりと白い雪に朱を添えた。
雪 花 埋 葬
ちくり、と切れた肌が痛んだ。
その痛みは今まで殺した人の悲鳴のようにも感じれたし、もう殺したくないという私の悲鳴のようにも感じた。
太腿の外側を掠めた銃弾によってできた傷から溢れる血は鮮やかだった。
はあ、と息を吐いて雪の上に腰を下ろした。
侵食する冷たさにはもう慣れてしまって、むしろ雪より自分のほうが冷えているとさえ思えるほどだった。
じわじわと雪に血が滲んでいき、雪をほんの僅かだが溶かしていく。
他を寄せ付けない冷たさが、私に傷口を針で刺すような痛みを齎した。
木に背を預けて目を閉じれば、冬特有の静けさが感じられる。
寒さに震えながら学校への歩みを速めていたあの日のような静けさが感じられる。
そんな、なんてことはない日々を思い出して、私は唇を笑みの形に歪ませた。
「…いたい…」
口元に笑みを浮かべた瞬間、制服のリボンで無理矢理に止血した腕の傷が痛み出す。
顔が苦痛で歪む。
その傷に手を添えれば、冬には不釣合いな熱さが指先に感じられた。
リボンに染みた赤が、黒く変色していた。
「…ああ、もうやだ、こんなに痛くちゃ動けないじゃない…」
眉を顰めた状態で無理に笑ってみた。
それはただ虚しさが倍増するだけで、然したる効果もなかったけれど、無意味に私は笑っていた。
もう何をすべきかなんてわからなくて。
何をするのが一番効果的かなんて考える余裕もない。
「いっそ、誰かが一思いに一発で殺してくれれば良いのに」
苦痛なんか感じる余裕もなく一発で逝ければ良いのに。
今みたいに苦しいとか痛いとか感じる余暇無く一発で死ねれば良いのに。
ぼんやりと虚空にそう呟くと、ふわふわと天から雪が舞い降りてきた。
その雪はただただ真白で、私の血の上に落ちて紅く染まった。
白は、染まりやすい。
侵食されやすい。
物事を吸収しやすい。
…そんな純粋な雪は私の上にもふわり落ちてくる。
「……雪…」
痛まないほうの手を持ち上げれば、手の上に雪が舞い降りる。
そしてそれは見て愛でる余裕すら私に与えずに、融けて掻き消えた。
…ああ、融ける雪のように消えてしまいたい。
口の中で小さく呟いた言葉は誰の耳にも届かず雪に吸収されて、また雪は解けて消えた。
目を、閉じる。
瞳を瞑れば脳裏を過ぎる顔に深く心で謝罪する。
私はまた緩々と目を開いた。
だんだんと視界が白んでいく。
ああ、そういえば太腿の傷は止血していないんだっけ。
じゃあ血が足りなくなっても仕方ないよね、うん。
なんだかまぶたが重いや。
じゃあもう寝ちゃおうかな、めんどうだし、なによりわたしもう疲れちゃった。
ああ、でも、最期くらいあの人の顔見て逝きたかったな。
大好きだった、あの人の。
「…とば、さん」
小さく咽喉がそう紡いで、私のまぶたはゆっくり落ちた。
真白な雪に咲く紅い華、それに囲まれ私はゆっくり眠る。
私の鼓膜を聞きなれた愛しい声が揺らしたような気がしたけれど、もう動けない。
「…!?」
ああ、ほんとは、あなたといっしょに、いきたかったよ。
2005/04/22
何この欝小説。読んだらみんな欝になっちゃうよ。
…ただ、雪の上に落ちる血は白地に赤の対比が綺麗だなーと思って書いただけです。
本当はキタコウプロジェクトに送りたかったんだけど、夢になっちゃったんで自サイトで消化。
『これを思いついたのは男子生徒が雪の上に鼻血を垂らしたのを見たことが切欠なんです』
なんてこと、口を大きくしてなんか言えない。
えへ、実はちゃっかりはとばさん夢。
『いきたかった』の漢字変換は脳内でご自由にどうぞ。
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