飄々と、不良さんたちが群れる(断じて蒸れるではない)廊下の中央を歩く。
この学校に入学してすぐの頃は中央を歩くなんてとてもじゃないけどできなかった。
でも今となっちゃもうあの頃の純粋さが遠く懐かしいもののような気さえする。


ぼんやりと、いつものように廊下を歩いていると、紙が落ちているのに気付いた。
その紙は一枚の紙ではなく、冊子状になっていることが近付くことでわかった。
それにはでかでかと「取扱説明書」と書かれていた。



好奇心に負けた俺は、その小冊子を取ってしまったのだ。










謎が呼ぶ謎










「…『すんきの』取扱説明書……?」


俺は落ちていた取説を手に取ったことを強く後悔した。
――何だ、これは!人間の取扱説明書があってたまるか!
いや、でもこれはこれで面白そうな俺の好奇心をそそるような読んでしまいたくなるような…。

胸の奥からふつふつと湧き上がる読みたいという衝動を必死になって抑えて、放送室への歩みを速めた。


 × ×


「す、すんの取扱説明書!?そんなもんあるん?」
「実際問題あるんだよ。これ、ソースな」


そう言ってひらひらと上下に動かして先ほど拾った小冊子をつこみに示す。
つこみが、ほうと感心したような表情を浮かべた。


「ホンマみたいやな…」
「嘘言っても何にもならねーだろ」
「せやなー…あ、そういやなんて書いてあったん?」
「まだ読んでねーよ」
「へ?どうしてまだ読んでへんの?さっさと読んでまえよ」
「だってなんか怖いじゃねーかよ」


もしすんきが、未来の知識を存分に使われて完成された精密機器(つーかロボット?)だったらどうすんだよ!
俺はその後何をすればいいんだ。
――やっぱり、TV局に売ればいいのかな。いくらで売れるかなー…うふ、うふふフ。


「怖さなんてくそくらえや!ほら勇気を出して読むんや、!」
「はっ!……あーもう、どうなっても知らねーからなー」


思わずトリップしてしまっていたようだ。
どんな事が書いてあるのかという期待に膨らんだつこみの顔が面前にある。
俺は腹を括ってその謎のベールに包まれたすんきの取扱説明書の一ページ目を開いた。



(キタユメ内、すんきの取扱説明書の参照をお願いします)



「……………」
「…………………」


見た瞬間、なんだか表現し難い嫌な雰囲気が俺とつこみの間に流れた。
すんきと暮らす上での注意とでも言えばいいのだろうか。…よく、わからない。
どうしよう。これを見たこと、見つけたこと、拾ったことをなかったことにしたい。


「…なあつこみ」
「――何や、
「これ、焼却炉に持ってかね?」
「賛成や…」


俺の提案につこみはすんなりと賛同してくれて、俺たちは焼却炉の中にその取説を投げ入れた。
焼却炉の中で煤となり、肥料か何かになってくれ、謎を読んだ取説よ。


「でももしかしたらあれ本物やったのかもしれへんよ?フリガナとかほんとのことやん」
「でも胡散臭かったじゃねーか…」
「確めてみたいんやけどなあ…」
「…確めるのは俺もやってみたい気がするけどさー…」


放送室に戻り、扉を開けた瞬間目に飛び込んだのは、居眠りするすんき。
俺とつこみは目と目を合わせてどちらからとも無く一言言った。



「眉毛を引っ張るな!」



示し合わせたかのように、つこみが右の眉、俺が左の眉に指を掛け、ゆっくり時を見計らって――


あの取扱説明書が本物なのかわかるまで、あと五秒――。





2005/03/16
キタユメですんさんの取扱説明書がアップされてからずっと書きたかったネタ。
でもなんかいまいち不完全燃焼気味…。
とりあえず、試してみたい。
説明しないで外国の食べ物与えてみたい!
ちょっと狼狽するすんさん見たいなあ……

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