中 毒 に も 似 た
「閃ちゃん、ねえ、閃ちゃんってばー」
我関せずを決め込んで、閃ちゃんは私の声なんてさっくり無視して、そっぽを向いて寝転がっている。ねえ、と言いながら背中をとすとす叩いても、返事なんかしてくれない。
ねえ、私、何かした?
「閃ちゃん、私は感応できないから、言ってくれないとわかんないよ」
閃ちゃんは、もし私が言わなくてもわかってくれる。それが、閃ちゃんにある、妖混じりの能力。私にはできない。だって、閃ちゃんと私は、まったく違う。私にあるのは、戦闘向けの能力だ(閃ちゃんのよりは、限くんの能力に近い)。
「私、何かヤなこと、した?」
じ、と閃ちゃんの背中を見つめながら言った。一瞬だけ、ぴくりと反応した閃ちゃんは、(女の子の割には)ほんの少し低い声で、私の名前を呼んだ。
……怒ってる声じゃない。どちらかというと、不機嫌なときの声だ。やっぱり、何か変なことしちゃったのかな。どうしよう。
「」
「……えと、はい」
そっぽを向いてた閃ちゃんが、ぐるり体ごとこちらを向いて、私の目をまっすぐ見つめた。目も合わせてくれなかったし、顔もまともに見れなかったから、それだけで、少し嬉しい。
じぃ、としばらく見つめ合っていたのだけど(だって、逸らしちゃうなんて勿体ない!)、閃ちゃんはこれみよがしに『はぁ、』なんて溜め息を吐いて、ついと視線を外してしまった。──ええ!? 今は、何もしてないよ?
「お前、馬鹿だよな……」
「せ、閃ちゃん、突然それは酷いよ……! 確かに、私は、親に戸籍捨てられちゃって義務教育受けてないけどないけど、でも」
頭領とか、翡葉さんに教えてもらえたから、完全に知らないってわけじゃないんだよ。
と言おうとしたけれど、その言葉は閃ちゃんの申し訳なさそうな顔に遮られた。
「悪い。そういう意味じゃない」
──悪かった。そう言って、閃ちゃんの手が私の頭をそうっと撫でる。気付いたら、閃ちゃんは寝そべっていた体を起こしていた。
「じゃあ、どういう意味なの?」
こんなこと、本当は聞かなくても良かったのだと思う。私は『夜行』という名の、私の存在を否定しない、優しい場所さえあればそれだけで良いはずなのだから。
けれど、閃ちゃんが、自分が悪いんだって自責するような顔をするのは、見たくなかった。観てるのが、嫌だった。だから、理由を聞きたかったんだと思う。
「『馬鹿正直なくらい、透明だよな』って言いたかったんだ。を馬鹿にしたかったわけじゃない」
「透明? 私が?」
鸚鵡返しで尋ねると、閃ちゃんはこくりと首肯した。
「基本、俺みたいにナカ読める奴には、心中を読まれないようにするもんなんだよ」
「頭領とか?」
「……ま、そうだな。そこら辺を主として、全体的にだけど」
胡座で座ってる閃ちゃんが、私の頭に優しく手を乗せた。
「けど、お前は違った」
閃ちゃんの目が、私をまっすぐ見る。私は、少し不安に思いながらも、その目に視線を合わせた。──次は、逸らされなかった。
「は、飾らないで、隠さないで、そのままだった。俺に、恐れすら抱かないで」
どうして閃ちゃんを恐れないとダメなの? おかしいよ、恐れるなんて。閃ちゃんは、こんなに優しいのに。
「……どうして、は、こう……、」
俺が欲しくて堪らない言葉を、容易に、くれるんだよ。
震えた声が、耳元で聞こえる。ぎゅう、と閃ちゃんに抱き締められてるって理性が気付いたときには、もう、私も閃ちゃんをぎゅっとしてた。
私たちは、互いに暖かさに飢えている。それを埋めようと、補うように抱き合った。
2006/06/29
欲に負けちゃって書いた、閃ちゃん夢。あー閃ちゃん大好きだー。
英語の予習中に書きたくなって衝動に負けた。携帯電話なんて存在するからだ。私の馬鹿。
恋愛に限りなく近い、相互依存関係のふたりを書きたかったのです。書けたのかしら。
閃ちゃん夢の需要がどれだけあるかわからないけれど、同士さんがいたら嬉しいなーと思います。
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