特に何をするでもないある日の昼下がり、ソファに体を預けてうだうだと過ごしている。
炎呪は手持ち無沙汰そうにそこら辺にあった本を読んでる。
私も私でソファに寝転んでぼんやりしてるだけ。
まあやることも無いわけだから物凄く暇なんです。
炎呪が退屈そうに欠伸をすのが視界に入る。
……私も寝ちゃおうかな、とかふっと思っちゃう。
ぱたん、と炎呪が読んでた本を閉じる音がした。
その視線の最奥に隠された
「炎呪、膝借りても良い?」
「はあ?」
「やることも無いし寝ちゃおうかなあと思って。ダメ?」
「別に。…の好きにしろ」
「ありがと。好きにするね」
体を起こして、炎呪の膝(というか腿だよね、厳密に言うと)に頭を預ける。
上を見れば、炎呪の顔が見れる。――なんか特等席かも。
炎呪の温かさに包まれて、なんか凄く落ち着く。
瞼を閉じて、炎呪の温かさを感じながら緩々眠りの世界に飛び立ちかけた。
ぼんやりとしていれば、右手にリアルな柔らかい感覚。
炎呪に右手を持ち上げられて、てのひらに優しく口付けられた。
眠りの世界から、引き戻される。
「…!ちょ、炎呪!?」
「何だ?」
「ななな何をして…!」
「キス」
いけしゃあしゃあと答えられる。
視界は炎呪のしたり顔に大きく占められている。
……顔が一気に紅潮したような気が、した。
「…しかもてのひらとか恥ずかしいでしょ…」
「そうか?」
「うん、ものすごく」
「本に書いてあったことをやっただけなんだがな、俺は」
「本…ってさっき読んでた?」
「ああ」
さっきまで炎呪が読んでいた本を視界で捉えて、背表紙を読む。
Franz Grillparzer――フランツ・グリルパルツァー。
えーと、オーストリアの劇作家さんだったかな、確か。
……それ以外に詳しいことなんてそんなに知らないよ。
「どんなことが書いてあったの?」
「読んでみるか?」
「うん。気になるもん」
そう言えば、炎呪は本を手にとってそのページを開いて差し出してくれた。
さすがに寝転んだまま本を読むわけにもいかないので、私は体を起こしてそのページを読んだ。
「こ、懇願の、…」
「ああ」
「……炎呪は何をそんなにひたすらお願いするの?しかも私に…」
「はわからないか?」
「うん、いまいちというか、全然」
それを言うのと同時に、炎呪が私の持っていた本を取り上げて床に放り投げた。
本が弧を描いて飛んでいくのを目で追っていたら、炎呪の突然の行動に体が追いつかなかった。
ソファに、押し付けられた。
「え、炎呪…?」
「ここなら、懇願だ」
炎呪の指が私のてのひらをなぞって、またそっと優しく口付けた。
ぞくぞくと何かが全身を貫くような感覚が私を占めた。
てのひらは神経がたくさん通っていると聞くけれど、その刺激だけではない何かが私の背を貫いた。
炎呪の目はただただ真直ぐに私を見ていた。
「炎、呪」
「、ここなら、何だ?」
炎呪の指が私の首筋をすっと、優しく撫でる。
声にならない声が、私の唇から洩れた。
炎呪の口の端が楽しげに上がった。
炎呪の唇が、私の首筋におりてくる。
私は観念したように目を閉じて、そのまま炎呪に身を委ねた。
掌の上なら懇願の。
腕と首なら欲望の。
2005/03/23
出典は、フランツ・グリルパルツァーの「接吻」より。
興味を持った方は○ahooで「グリルパルツァー」をキーワード検索してみてください。
それで多分出るんじゃないかなあ?
まあ、炎呪さんでやってみたかったネタです。はい。
炎呪さん色っぽいと…いいなあ…。
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