Kiss the hand of me.

 瀬人は私の手を優しくとって、そっと指輪を嵌めた。じっと瀬人を見つめても、彼の真意はつかめない。

「ありがとう。……でも、どうして薬指にはめるの?」

 私の気持ち、わかってやってるの? と言いたくなるのを飲み込んで、そう問い掛ける。触れられている手がほんの少し熱くなっている。そっと指輪を見下ろすと、細くて華奢な造りの銀色が私の右手薬指を彩っていた。

「何故だと思う」

 瀬人はゆったりと細めて、肩を竦めた。

「またそうやって、はぐらかすんだから」

 時々、瀬人は、こんなふうになぞなぞじみた問い掛けをする。私に何かを隠している証拠であることはわかるんだけど、それが何なのかまではわからなくて、私には上手く追及できない。仮に尋ねてみても、上手く言い逃れられるだけだ。

「やらん方が良かったか」
「そういうわけじゃないくて……貰えたこと自体は嬉しいの。何ていうか──」

 ただ、瀬人の真意をはかりかねているだけだから。
 とは、どうしてか、言えなかった。どんな言葉にすれば一番良いのか懸命に探してみたけれど、探せば探しただけ、私は声を失った人魚のように何も言えなくなっていく。気掛かりなこと、聞きたいことが、鉛みたいに喉に引っ掛かって詰まってる。

「……別に、外したければ外しても構わんぞ」
「え?」
「貴様に似合うだろうと思って渡した。ただそれだけだ。がどうしようと自由だ」

 瀬人はそう言うと、馴れた仕種でコーヒーカップを持ち上げた。捕らえどころのない、厳しく苛烈で、何処かシニカルな瀬人の顔と、彼が私の指にはめた指輪を見比べると、何故か涙が出そうになった。
 私は、蚊の啼くような声を絞り出す。

「……ずるい」
「ん?」
「ずるい、よ、瀬人、そんな風に言われたら」

 外せない。……外せるはずが、ない。

「ああ。……のためなら、狡くもなる」

 何年越しだと思っている? と、いつもとは違う鋭さをたたえた目で、瀬人は私を真っ直ぐに射抜いていた。

「こう見えてそう余裕もなくてな。なりふりなぞ、気にしてもいられん」

 視線の鋭さとはまったく違う、縋るような声色に、何故か、わたしは、遠いむかし──彼が引き取られた頃のことを、父が亡くなった日のことを、思い出していた。
 ほろり。雫が、おちる。

「せ、と」

 指輪に、瀬人のあつい唇が落ちてくる。他人に瀬人が与える印象とは裏腹に、くらくらするほど熱い唇。
 背筋が痺れてとろけゆくような感覚。

「……

 熱っぽい声が、聞こえた。





write:2008/06/11 up:2009/01/28