唇に熱い何かが触れた。頭が、真っ白になる。「どうして」という疑問も、抵抗することすら浮かばないくらい。どれくらいそうしていたかわからない。ふとしてその『何か』が離れて、私は、ようやくデンジさんにキスされたのだと理解した。
一度離れたそれが、また近付こうとした時、私は唯一自由だった左手で唇を覆って隠す。やっと落ち着いて見れた相手の顔は、ひどく不機嫌そうだった。
そして、私の頭上の辺りでデンジさんの体を支えていた手が、私の左手を退かそうとする。あ、剥がされた。
「ちょっ、――デンジさん!」
声をあらげて、デンジさんを静止する。
「なんだ?」
「『なんだ?』じゃない! ちょっと待って!」
壁に背中が押し付けられて痛いとか、掴まれた手首が熱を持ってるとか、そんなこと言ってる場合じゃない。どうにかしてこの状況から抜け出さないと、流されてしまう……!
デンジさんはなんとも不満そうな顔のまま、私の顔を見つめていた。デンジさんの、(めずらしく)真面目で熱い何かを秘めたような目が、私をまっすぐ見てる。私を白亜の壁に縫い付けて、逃がさんとしている。
私はデンジさんより力が弱いし、スピードもないし、何よりデンジさんの裏がかけるほどカケヒキも上手くない(ポケモンバトルをする人は、得てしてカケヒキが上手い気がする)。
逃げようとしても、私の墓の穴が深くなるだけ。いつも無気力そうにしてるけれど、デンジさんはやる時はやる人だ。それは私もわかっている。
目の前のデンジさんの青い目が、不思議そうにまばたく。
「何か問題でもあるのか」
デンジさんは、何所に問題があるんだといわんばかりに、そう言ってのけた。
「も、問題大有りです!」
「どこに?」
「だって、だって私たち付き合ってるわけでもなんでもないのに、」
それなのに、キスなんて、おかしいよ。
段々と言葉が後ろにいくにつれて、小さくなっていく。デンジさんの強い目に負けそうだと思った。――だって、デンジさんのあんな目、ポケモンバトル中でも滅多に見ない……。
「……ああ、そういえば、言ってなかった、か?」
「え?」
デンジさんの言葉に、心中で首をかしげる。言葉の意味を尋ねるか尋ねまいか思考を巡らした瞬間、囁かれた。
「……お前が好きだ」
返事をする間も無く、ふたたび、唇に熱。次こそ、熱は冷めなかった。
2007/02/23
もう既に告白したつもりだったデンジさんと、デンジさんの横でやきもきした生活を送ってたヒロインさんのお話。
告白したつもりだったから、いつも隣にいるヒロインさんを見て、もうOKもらってると二重に勘違い。ああ、恋の勘違い地獄!
とりあえず脳内設定的に、ヒロインもデンジのこと好きなんで、ハッピー・エンドではないでしょうか。
え? デンジの二人称は「きみ」だろ、ですって? アーアー。聞こえなーい!!