■ 花、散る ■ 金沢のと(白)






 降り、散る桜。
 いわゆる桜吹雪があまりにも綺麗で、私は言葉を持たぬ生物のように、ただそれを食い入るように見つめていた。
 青空を舞う淡いピンク。それは、本当に綺麗だった。言葉に出せば飛散して消え失せてしまうのでないかと思うほど、綺麗だった。それ以外に形容する言葉を見つけられないくらい、綺麗だった。
 風が桜を散らし、髪をも舞い遊ぶ。視界をちらつく髪が邪魔で、私はそれを右手で抑えた。


、ここに居たの」
「……のと?」


 唐突に声を掛けられ、ゆっくりと振り返る。――ざあっ、風が吹いた。
 息を切らせたのとが、桜吹雪の中に、居た。のとの姿が桜の風に掻き消されそうだと、何故か、そう思った。


「探したんだから」
「どうしたの?」
「一緒に、帰ろうと思って」
「……」


 よくもまあそういう赤面しそうな台詞を、素面で素の素で言ってくれるわね。
 そう心の中で毒づきはしたけれど、私の顔はほんの少しは赤くなっていたに違いあるまい。


「……、はなびら付いてる」
「え、どこ?」
「ここ」


 のとの指先が私の髪に触れて、髪についていた桜の花びらを取った。うわ、至近距離。絶対、また私の顔赤くなってる。
 取られたピンク色の花びらが、風に乗って地面へと落ちていく。それをゆっくり眼で追っていると、のとの声が私の鼓膜を優しく揺すった。


「ね、、帰ろう?」
「……ん。帰ろっか」
「うん。一緒に、ね」


 差し出されたのとの手に、私はゆっくり自分の手を重ねた。
 繋いだ手から、のとの温かさが伝わってくる。ほんの少しだけはやい鼓動が、重なった。





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