鵜殿すんき調査会
鵜殿すんき。
この男、実に生真面目でストイック。
…ああ、多分すんきにはストイックなんて言っても通じない、か。
伝わるように言うなら……克己的・禁欲的なんて所かな。
でも時々、すんきは禁欲的というよりもそういうものに興味が無いのと言ったほうが妥当なんじゃないだろうかと勘繰りたくなる。
普通、高校生っていったら俗世的な情欲とかそういうものに興味を持ってて当然の年齢ではないのだろうか。
なのにすんきときたらノマルが持ってたエロ本覗いた瞬間顔真っ赤にしちゃうし。
(俺はこの本を借りたけど、ノマルとは趣味があわないみたいであんま使えなかった)
放送室でつこみとノマルと俺がそういう話になったら絶対参加しないし、意味も理解できてないし。
これは流石に年齢にそぐわない。
時代錯綜っぷりが甚だしい鵜殿すんき云えど、これは年齢不相応すぎ。
……いや、仮に武士が居る時代に溯ると寿命が短いからこのくらいの年ならもう知ってるかな…?
――とにかく。これでは鵜殿すんき氏は色々と世間に遅れをとりすぎだと思いませんか?
にっこりと微笑んで目の前にいる少年三人、舗家つこみ、府内西丸、彦根カロムに問い掛ける。
さあ、答えてくれ、御三方?
「は相変らず色々変なこと考えとるな…」
「気になったことは最後まで観察考察するのが俺の特色?だからー」
「…どうして疑問系で終わらせるんだよ」
「何となくー」
机上にあるねこのたまご(北海道のある都市限定のお菓子だ)チョコレート味をひとつ口に放り込んでノマルを見る。
カロムはままどおるを食んでいる。
多分カロムは話の意図を掴んでないんだと思う。意味が解らないけど笑って誤魔化しておけオーラが見える。
わからないうちはわからないままでいたほうがいいよ、カロム。
いつか嫌でも理解せざるを得なくなるからさ、今のうちだけでも知らない時間を満喫してくれよ。
つこみはこの話題に理解と興味を示してくれたようで生き生きとした目で見つめられた。
「…せやな、カタカナとか横書き文字とか苦手やもんな、すん」
「だろ?あれはちょっと出る時代間違えましたって感じだよな」
「やな!まあそれがすんや言うてまえばそれで終わるんやけど〜」
つこみが軽快な笑い声を上げてけらけら笑って同意してくれた。
ノマルが盛大な溜息を吐くのが見える。何だよ。何がいけないって言うんだよ。
これは我が知的好奇心を埋めるためにしておかねばならないことなんだ!
「なーノマルはどう思う?バンドメンとしてはもう少し流行追って欲しいって気持ちはない?」
「時折、横文字の日本語訳を頼まれて困ったりはするけど、あれがあの人だろ」
「知ってるよ、あれがすんき。でもよ」
ポテチを口に放り込んで机にぐだぐだ上半身を預ける。
呆れたようなノマルの苦笑いが目の上のほうが捉えてくれた。
だーってさー…
「可愛い女の子に押し倒されて『ダメ…ですか?』って言われたら行っとくような気がしね?」
机に上半身を預けたままの状態でカフェラテのストローに口をつけると色々と困惑している二人が見えた。
勿論、カロムはもぐもぐとお菓子を食べているだけで話の内容は理解してない。
つこみは飲み掛けのコーラを吹き出してごほごほ咽ている。苦しそうだ。
ノマルは開けたばかりの缶コーヒーを床に溢して驚いたように目を見開いている。
「つこみハンカチいる?」
「……さんきゅ、…」
「ノマル、ちゃんと拭けよ。あ、雑巾は右隅のバケツの中な」
「…、了解」
まだ咳き込むつこみと、溢したコーヒーを拭くノマル。
席と掃除が一段落つくと、つこみとノマルはほぼ同時に同じような意味の言葉を言ってくれた。
「すんが女に押し倒されたっちゅーのはホンマ?」
「うん、ほんとほんと」
「…可愛い女の子…?」
「うん、首の付根くらいの長さの黒髪で赤リボンつけたセーラー服着た可愛い女の子」
「押し倒したんは故意なん?それとも偶然?」
「見る限り故意。つーか保健室のベッドにうまーく押し倒してたし絶対故意だなあれは」
「…夢とかじゃねーのか?」
「まさか。女の子居なくなった後どうしようかうろうろしている時、こけてめっちゃ痛かったもん」
蒙古斑がもう一回できるかと思った、と言って笑ったけど二人は反応しなかった。
呆けているっていう表現が良いかな。
お菓子が足りなくて淋しそうにしているカロムにはこの間鞄に入れたままどおるを差し上げて機嫌取り。
予想通りにこやかーな笑顔になってはむはむはむ…
「――すんて意外ともてるんやなあ」
「まー見るからに優しいし実際優しいし強いし母性本能擽るわで女の子受けはするんじゃ無いの?」
「……なあ、保健室って、バルヨナのか?」
「それ以外の場所の何所でがすん見れるんや。そうに決まってるやろ」
「そいつ、大丈夫だったのか?」
「………………」
ノマルの言葉に、上の学年の屈強なヤクザさんたちが自然と脳裏に蘇る。
この女の欠片もへったくれもない学校で、そういう人に見つかったかもしれないという可能性が…。
俺とノマルとつこみの三人で顔を見合わせて、誰からともなく天に十字を切った。
鵜殿すんき生態解明、調査報告はこれにてお開き。
――そして、今までのことは無かったこととする、が結論になった。
2005/01/25
初男主人公ドリーム。ただすんさんの生態解明したかっただけ。
出来てないんですけどね…。生態解明…。
でも楽しかったです。女の子の夢には無い楽しさがあって。
自分ではあんまり書けないかな、って思います。結構時間掛かったんで。
そうそう、このすんさんを押し倒した女の子はのの(のと)ですよ。
ちなみにすぐ想像つくと思いますが、黒のと様ののたんです。
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