そ れ は 宛 ら 甘 い ジ ャ ン キ ー
「ねえ、誉」
「かがらしか。黙っててください」
誉の愛兎でもあるあかべ子の頭を撫でながら、私は机に向かって頭を抱える誉の名を呼んだ。
全く、宿題なのか生徒会のほうの仕事なんだか知らないけど、早いうちにやっておかなかった誉が悪いのよ、と言ってしまいたい。
言ったところで、誉がそういうところを改善するとは思えないけれど。
「黙ってろって言ったって、私は勉強してる誉見に来たんじゃないの」
「うっつぁーしーです」
「ひど……」
……実際にはそうは思っていない。誉のそういった物言いにはもう慣れてしまった。
大分昔から、こんな風に捻くれた言い方しかしないんだもん。
長い間聞いていれば、本当に言いたいこととか何と無く感じ取れるようにもなるし、本心から言っているわけでもないとわかるようになる。
そりゃ、初めて誉と話したときはびっくりもしたし、「怖い人だなあ」とも思ったけれど、ずっとびくびく怯えてるような殊勝な人間じゃなかったし。
「あらあら。お前のご主人はご機嫌斜めなようだよ、あかべ子ちゃん」
誉を揶揄しながら、あかべ子の頬っぺたをぷにぷにした。
その言葉に誉はむっとしたようだったけれど、机の上の紙を処理するのが先と言わんばかりに黙々と作業を進めていた。
あら、意外…と思いながら、私は一応持ってきておいた文庫本を取り出して、ぱらりとページを捲った。
誉のシャーペンの音と、資料の大量印刷の紙が捲られる音に、私が本のページを捲る音。
しん、とした部屋の中に響く静かな音は、その音本来の大きさよりも大きく聞こえた。
本をきれの良いところまで読み終わったので、一度息抜きをしようと本に栞を挿んで顔を上げると、暇そうな表情を湛えた誉が目の前にいた。
「――っ!? ちょ、誉!?」
「…暇です」
「あんたがそれ言うの? 私もさっき暇だったのに?」
「鈍すぎます。30分は無視されでたんですけど」
ごめんなさい。本当に気付きませんでした。
そう誉に言うと、はっと鼻で笑うような声と、見下すような視線での一瞥。いや、私が悪ぅございました。自覚しております。
私は、その嫌ーな誉の視線から軽く避けながら誉に言葉を投げる。
「作業は終ったの?」
「解けなかったを盾にします」
「……終ってないのね」
閉じた文庫本を鞄に押し込みながら、呆れていますと声の表面に思いっきり出して呟いた。
誉の片眉がぴくりと反応したのをぼんやりと視界で捉えながら、私は冷めてぬるくなった紅茶を一口飲んだ。
「」
「ん? 何?」
ぐいと、右腕が引かれた。視界に映る景色がぐるりと大きく変化して、やわらかくて弱い衝撃が額を襲う。
一人慌てていると、やわらかいだけじゃなくて、あたたかいものにぎゅうと包まれた。
それが誉の両腕だと気付くのに、私は暫しの時間を要した。
「…え、誉……?」
「何ですか」
「…この状況、簡単に説明してくれる…?」
私の言葉を聞いて、誉は一瞬考えるような素振りを見せたけれど、答えようとすらせずに私を抱き締めたままだ。
待て待て待て待て。お願いだから私にわかりやすいように噛み砕いて説明して……!
「…あの、これは一体どういうことですか?」
「さあ? どういうごとでしょうね」
「他人行儀ってか…他人事みたいに言うのね」
溜息を吐きそうになる自分をしっかり押し止めて、私は誉にそう返した。誉は意外そうな顔をして、私に問い掛ける。
「はいやですか?」
その言葉に、私は一瞬ぴたりと止まる。
たっぷり1分ほどの間をおいて、私はぽそりと小さな声で返答した。
「いや、じゃ、ないけど」
「ならこのままでも良いじゃないですか」
……私は誉の言葉に反論できず、上手く丸め込まれた形で誉に抱き締められたままでいた。
誉は楽しげに私の髪先に触れてはぱらぱらと落としたり、そのまま手で髪を梳いたり、終いには髪にキスまでしてる。
――でも、それが嫌じゃないんだから、いいか。そう思ってしまう自分がいることに気付いて、私は小さく笑った。
きっと、この関係は変わらない。こうやって無意味に二人でいる時間がずっと続くのだろう。
私の髪に触れる誉の手の優しさに、私はそっと目を閉じた。
2005/10/09
…うわ! 書いている私でも恥ずかしい小説がきましたよ。
誉さん可愛いとか思いながら書いてただけです。所謂欲望の走り書きですよ。
はあ。…うん、楽しかったんです。読み直すと恥ずかしいけれど。
高3にもなってこんなに可愛らしい関係続けてると考えると非常に萌えます。
だからちぇりーなんですよ(のと様部屋よりー)。ああ萌え!
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