あ と か た も な く ゆ き は と け る






 逃げられない。ぐるぐるまわる。酸素が足りなくて頭がふわふわする。支えていてくれなかったら、膝から崩れ落ちてしまって、床に座り込んだまま、立ち上がれなくなっていると思う。
 私の頭の後ろにがっちり固定された手も、私の腰を支えてくれる優しい腕も、全部全部、すべて愛しい。
 ――溺れそう。泳ぎ方を忘れ波に呑まれた人魚みたいだ、と思う。ずるずると、海の底へと引きずり込まれていく。意識の海に。快楽の海。意識の泥濘に飲まれてく。
 行き場を失った手で、西丸ちゃんの真っ白ワイシャツの裾をぎゅうっと掴む。こうやって掴まないと、ぷっつりと糸が切れてしまいそうだった。(何の?)(――多分、理性の)


「――


 唇が一瞬だけ離れて、囁かれる。耳元に熱い吐息を感じて、びくりと肩を揺れた。掴んでいたワイシャツから、ゆっくり指を放して、息を整えようと(西丸ちゃんに声をかけようとしてだったのかもしれない)、口を開く。


「はぁ、――にし、のまる、ちゃ……んッ」


 開きかけた唇は、すぐに塞がれた。
 ワイシャツを放した手は西丸ちゃんに捕らえられてしまっていた。つつ、と人差指をなぞられる。ぞわりと走る、電撃じみた甘い衝撃。唇も指先も、抱かれてる腰も、密着してる体まで全部全部――まるで、とける、ゆきのようだと思った。
 あなたの熱で、わたしがとけていく。

 あとかた  なく まっさらに。





2006/07/18
うぎゃっ! ノマルえろいよノマル! こんなの西丸ちゃんじゃなーいー! (錯乱)
キスしてるだけの文章と描写で、よくまあ作文用紙1枚以上埋めるなあ、と感心しますよ。自分に対してでもね。
あー。でもなー、私の中の西丸像とはまったく違うんだよなあ。ベクトルが違うんだよー。
誰か私の理想の西丸さんを形にしてくれないかしら……。

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