わ か れ み ち
傷回りの修復がされてこない。ああ、きっともう終わりなんだ。そう思っていた思考を引き戻すのはの泣き叫ぶかのような声だった。
……泣き叫ぶ? 俺のために?
「やだぁ! 限くん! 限くん!」
俺の手に触れ、縋るように俺の名を呼ぶ続ける。
完全変化した姿見たんだろ? 気持ち悪いとか、感じないのか? そう問おうかとしたが、馬鹿馬鹿しいとその気持ちを一蹴にした。どうせこいつのことだ。自分のことを扱け下ろさないでってまた一層泣き出すのだろうから。
「…そんなに呼んだら、眠れないだろ」
「眠らないならもっと呼ぶ! 限くん、限くん」
どうして指先が冷たいの――? との咽喉の奥で呟かれるのが聞こえた。どうせ聡いのことなんだから、気付いてんだろう? そう言うかのように指先をほんの少しだけ動かした。
「私、まだ返事もらってない! 起きてよ! 限くん!」
それだけじゃないけど! と俺の目を真っ直ぐに見ては叫ぶ。悲壮に満ちた声で。俺を揺さぶったあの声で。俺の胸を鷲掴む声で。
自分の左手をそっと持ち上げて、の頬に触れる。温かい、を通り越して熱いとすら思える頬に。その頬を流れていく涙を少し乱暴(といっても優しくできるほど今の俺に余裕はない)に拭って、呟く。
「……あの時、本当は、うれしかった」
頬に当てた手に、がおずおずと自身の手を添えた。気を抜いてしまっては落ちてしまいそうだったから、逆にそれは救いだと思った。
「俺は」
ぽつりと呟く。 が俺の目を見詰める。深い深い蜂蜜のようで酷く惹かれる愛しい色を。
「…が、好きだった」
じわりとの涙がまたかよった。俺の手を持ったまま、が声を張り上げた。酷く震えてはいたが。
「……うして、過去形なの!? 現在進行じゃないの? 終わらせないでよ! 私まだ好きだよ!」
「…ああ」
「やだよ、やだ! 私まだ一緒にいたい!」
頭を過振って、が泣く。いつもこんなに聞き分け悪かったか?
「…なんか我が侭だな、今日は」
その言葉で、がまた泣き出す。ああ今日は泣かせてばかりだな、泣かせたいわけじゃないのに。ぼんやり考えていると、もうひとつの泣き顔が目に入る。
「何だ、その顔…」
まさか俺のために泣いているのか?
「お前が弱っちいこと言うからだろ! このまま引き下がんのかよ! まだやりたいことだってあんだろ!?」
ぼんやりと考える。
頭領に任された。頼りにされた。完全変化した俺を否定されなかった。拒否もされなかった。受け入れてくれた。嫌われると思っていたのに嫌われなかった。化け物じゃなく、人間だと認めてくれた。好きだ、と言ってくれる人がいた。大切な人が出来た。壊すだけではなく、守ることが出来た。3人を。烏森を――
「姉ちゃんに…あやまりたかったけど…」
がそこで息を呑んだ。
「いい、満足だ」
ふと何かに引かれるような力が強まった。それに引かれるように目を閉じると、が驚いたように俺の手を強く掴んだ。
「…限くん閉じちゃダメ! 開けて! やだやだ、だめ!」
「ダメだ! 受け入れんな! お前にゃまだ借りがあんだよ! 目ぇ開けろ! 志々尾!」
バカだな、借りなんてもう十分――。
すとん、との手から少し力が抜けた拍子に俺の手が重力にしたがって落ちた。
「志々尾ォ!」
「限くん!」
あんまり名前呼ぶなよ。
――――眠れないじゃないか。
2006/01/04
10巻を購入したときに勢いで書いたメモっぽい殴り書きを元に書いてみた、サイト用夢。
書いているあいだ4回ほど泣き出しそうになってました。3回くらい実際に泣きました。
……きゅ、救済書こうかなあ…限くん救済話…無理かな。
限くんは幸せとかから縁遠い生活してたから、日常パートで幸せにすればするほど、ここで「満足できた」って結論に辿りついちゃいそうで…。
あー…もう。やっぱり私は限くんのこと好きだ…。
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