いたみ
「痛い死ぬ痛い痛い痛い痛い……」
「…死ぬのか……?」
ソファの上に寝そべって、毛布に包まり深い溜息を吐く。少しは気も紛れるかと思ってしたことだけれど、気は紛れずにやはり痛みは本物のまま。
異常に痛むお腹を両腕で庇うようにしながら、また息を吐いた。
……血が、足りない。まともに動くにはやや足りない気がする。
「西丸ーお腹痛いよ助けてー」
「……お前、風邪か?」
「風邪じゃないー。風邪だったら馬鹿正直に病院行くよ…」
勘の鈍い西丸に内心溜息を吐きつつ(いやここで悟られるのも困るよーな気がする…けど)、ソファの上で姿勢を変えた。
そして、私の寝そべってるソファの足元の方に座ってる西丸を足先で叩く。
訝しげに眉を顰めた西丸が、ちょっとだけ引き攣った笑みを浮かべた。
「…何だ」
「薬、取ってほしいの」
「腹痛だから整腸剤か?」
「いや、違うの…」
「?」
本当に鈍いなあ…。でもバルヨナは女っ気ないし、仕方のないことかもしれない。
西丸ん家はお母さんも姉妹もいないし、そういうのがわからなくても納得がいく。
でも今はそういうこと考えてる場合じゃなくて、この下腹部の痛みと腰の痛み、ついでに腰のだるさをどうにかしたい。
「…頭痛薬取って」
「痛いの腹だよな?」
「うん」
「頭痛は頭だよな?」
「うん」
お願いだ、悟ってくれ。あまり口から語りたくない話題なんだから。
「頭も痛いのか」
「……うん」
「大変だな」と言う西丸が、ある意味とんでもない大物のような気がして、私は思わず返事が遅れた。
それが何だと思ったのか、西丸は私の頭を二、三回ぐりぐりと撫で繰り回してから薬を取りに立ち上がった。まあ確かにちょっと頭も痛いから、あながち間違いじゃない、かな?
それにしても、どうして女だけこんなに辛いんだろう。子供を産むのなんてどうせ個人の自由なのに、体が強制的に準備するなんて。
面倒だし、不公平。
こんなにだるくちゃ何にもできやしない。
あ、駄目だ。
思考回路が、脳が茹だってる。
考えたところで現状は変わんない。私は絶対にオンナノヒトのまま。メスを入れない限り絶対に変わらない。不変。
「? 大丈夫か?」
深い思考回路の海から、西丸の声が私を引き上げる。
水のはいったガラスのコップを低いテーブルに置いて、もう一度確認するかのように言った。
「…本当に大丈夫か?」
「うん、へーきへーき」
ソファで丸まってた身体を起こして、薬を受け取る。半分が優しさでできてるらしいバファリンだ。
それを水で飲み込んで、コップをまたテーブルに戻す。
またソファの上で丸まって、意識を別方向に飛ばして痛みを感じないようにする。
「…本当に平気か? 顔色悪いぞ」
「……うん、だいじょぶ。一週間ぐらいしたら治るから」
「結構長いだろ、それは」
西丸が呆れたように笑う。
全くもって正しいことなんだけど、きっとそれが正しいことだなんて思ってないんだろうな。
私は西丸につられるような形で顔に苦笑いを浮かべると、ゆっくり目を閉じた。
「ゆっくり寝とけ。楽になるだろ」
「――うん…」
「今日の晩飯は消化にいいもん作ってやるから」
「そっか…ありがと」
「ああ。だから、はゆっくり寝てろ」
西丸の大きな手が、私の背中をゆっくり撫でる。
落ち着かせようとしてるのか、痛みを和らげようとしてるのか、はたまたどっちもなのかわからないけれど、とても優しくゆっくりと。
そのほんの少し不器用な手が優しくて温かくて、私は口許に苦笑いじゃない、普通の笑みが浮かぶのを感じた。
浮かんだ痛みがほんの少しずつ消えてく、そんな感じがした。
「うん…おやすみ、西丸」
胸の奥で、もう一度「ありがとう」を呟いて、私はゆっくりと眠りの世界に落ちていった。
2005/11/19
生理でだるい。そんなときにノマルさんに我侭目一杯言いたいなーと思って…。
ごめんなさい、軽い(逆だよ酷いよ)発作的に書きました。
私は生理痛が異常に酷いんですよ。薬もあんまり効かない体質なんで、毎月その時期は死んでます。
まあこの作品の西丸さんはヒロインさんが生理痛で死に掛けてるのには気付いてません。
ああもうかわいいなあこの人は! うはー!
ここだけの話、この作品は某サイトさまの生誕日企画に送ろうとしていて間に合わなかった代物です…。
ノマルラヴァーのあのお方のお誕生日…献上品付きでご祝辞言いたかったなあ…。
とっても今更だっていうのは自覚ありますよ、突っ込まないで下さいな。
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