おやつの時間








 熱いお湯で煎れた日本茶を飲みつつ、貰い物である栗羊羹(有り難う叔母さん! 有り難く頂いてます)を突付きながら、西丸ちゃんと一緒の三時のおやつ。
 お茶を一口すすると、思わず「はぁ」と溜息がこぼれた。ああ、お茶が美味しい。幸せだなあ。溜息が出た唇が、緩やかな弧を描くような気がした。


って、平和な奴だよな」
「平和? 何でー?」
「んな茶と羊羹一つなんかで幸せそうに笑ってたら平和なヤツ以外の何者でもないだろ」


 むにーと西丸ちゃんの右手に頬っぺたが引っ張られた。あうあう。喋りにくいから止めて頂戴な、西丸ちゃんや。
 そんな感情を込めて西丸ちゃんの手をぺちぺち叩くと、西丸ちゃんの手がつまらなそうに私の頬っぺたから離れてった。
 ああ、ちょっとだけ赤くなってるんじゃないだろうか? と思って頬っぺたに手を当てながら、私は西丸ちゃんの方を半眼で睨みつけた。お茶を飲んでた西丸ちゃんが少しだけ苦笑いした。
 ――確かに、大した迫力はないんだろうって自覚はあるんだけど。


「……そんな目すんな。悪気はねえよ」


 ぽすぽすと窘めるように頭に乗った手の感触が心地好くて、私はゆっくり目を細めた。


「なら、良いけど」


 ぽつりと言って、羊羹を一口食べる。そして、湯飲みのお茶をまたすすると、中のお茶が無くなってしまった。まだ飲み足りない。私は急須に入っていたお茶をとくとく注いでまた一口ごくりと飲んだ。


「おいし……」
、俺にも」
「はいはーい」


 差し出された西丸ちゃんの湯飲みを受け取った。そして、お茶を淹れようと急須に伸ばしかけた手が、ぐっと捕まれた。「どうしたの」と問おうとして顔を覗きかけると、ぎゅうと西丸ちゃんに抱きしめられた。


「なあに?」
「……やっぱり、要らねえ」


 西丸ちゃんがぼそぼそと呟くように私に囁いた。全身の血が全部顔に集中したんじゃないか、ってくらい顔が熱くなる。
 ねえ、そんなのは。


「反則、だよ――」
「関係ない」
「わ。西丸ちゃんがぐれた」
「結構前からな」


 くつくつと笑って、西丸ちゃんは私を後ろから抱きすくめた。ああ、顔に集中してた血が色んなとこに巡り巡って、全身が熱くなっていくような気が、した。



「……な、に?」
「好きだ」


 ああもう。どうして、西丸ちゃんは、こんなにも私の心をぐるぐるに掻き乱すのかなあ。私だって、私だってね?


「わたしも、好きだもん」


 そう言った瞬間、西丸ちゃんの腕の力がぎゅうと強くなった。温かい西丸ちゃんの腕の中で、私はぐるぐると思考が混じって、もう何が何だかよくわかんなくなる。
 けれど、西丸ちゃんとの空気は、とてもとても愛しいものだと思った。





2006/03/26
サイト一周年、日記で受け付けてたリクエストの作品、府内西丸です。
小説の傾向が書かれてなかったので、勝手に幼馴染設定で甘めーに書いてみました。
これでよかったのか不安ですが、楽しく書かせて頂きましたのでまあそれでOKということで。
それにしても、このノマルさんは似非臭漂う感じで大変申し訳無く……。
西丸さんが顔真っ赤にしながらぎゅーってしてくるって考えると大変萌えますね。

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