どうして、と、震える声で

――お前、俺のこと好きだろ?」

 いつも通りの強い目で、自信たっぷりに言われてしまった。言葉にしてはならないと、私がずっと隠し続けてきたつもりの言葉を、言われてしまった。嘘や隠し事が得意だとは思っていなかった。けれど、この感情、この気持ちだけは見つかってはならない、と、私は必死に隠し続けていた。親友の杏子にも告げず、何か悩んだときには必ず相談していた半身にも、言わずに。

「……何の、こと?」

 空々しい言葉、と我ながら思った。けれど、この感情はあってはならないものだから。本人に気取られたとはいえ、私が白を通しきれば、無かったことにできるはず。――できないと、困るのだ。
 遊戯のベッドに腰掛けたまま、私は俯いた。揺らしていた足を止め、誤魔化すように、手で包むようにして持っていたマグカップに口をつけた。

「もっかい言うぜ? 。お前は、俺のことが好きなんだろ?」

 二度目の言葉。頭蓋を、鈍器で殴られたかと思った。彼の顔を見てはいないけれど、デュエルのときのような、強い目をしているのだろうということだけはわかる。
 返事をせずに俯いたままでいると、ぎし、と、ベッドが軋む音がした。慌てて顔を上げると、遊戯であって遊戯じゃない、自身に満ちた強い眼を湛えた彼が、すぐ目の前にいた。どくんと、心臓が跳ねる。
 生まれてから15年、ずっと一緒に生きてきた、私の大切な半身である遊戯。今目の前にいるのは、遊戯であって、遊戯ではない人。遊戯が組み立てたパズルによってここに在る、別存在。同一であり、相異。彼は、遊戯ではない別の人だけど、でも、確かに彼は遊戯なのだ。

「どうして、そんなこと、言うの?」

 心臓が、高く波打っている。さっき紅茶を飲んだばかりなのに、口の中がからからに乾いてて、少し喋りにくい。

「お前がそれを聞くのか、

 遊戯とは質の違う声。どきどきする。
 目前から下りてくる声、真剣な瞳。――恥ずかしさに耐えられなくなって視線を逸らそうと顔を横に向けかける、と、頬に彼の手が宛がわれた。動けない。心臓が爆発しそうなくらい、早く脈を打つ。触れられたところが熱い。
 ……同じ顔、なのに。
 遊戯と同じ顔なのに、どうして、見つめるだけでこんなにも辛くなるんだろう。

「……遊戯は遊戯だもん、好き、だよ」

 いろんな気持ちを、全部ひとまとめにして、心の隅っこに押し遣って、吐き出した。何度捨てようとしても消せなかった想いに蓋をして、ゆっくりと。言った瞬間、遊戯じゃなくてあなたが好き、と、形振りも何もかもをかなぐり捨ててしまいそうになった。私は彼が好きなんだ。耐えられなくなるぐらい。目を合わせているだけで、心臓がうるさくなるし、触れられてるだけで、思考が茹だってしまう。
 けれど、言うわけにはいかない。遊戯は遊戯で、大切な私の双子の兄なんだから。

「……本気で言ってるのか」
「本気、だよ、嘘じゃな――っ」

 彼の指先が、私の頬をなぞっていた。形を辿って確認するかのように、ゆったりとしたはやさで。遊戯と同じ指のはずなのに、別のものみたいに感じられて、私の体はわなないた。どうしようどうしよう、頭がまっしろになる。
 どうしようもないくらい好き。だけど、絶対叶わない想いだから、言わないのに。

「泣くな。俺が泣かしてるみたいだろ?」

 優しい声とともに、親指で涙が拭われた。ああ、もう、どうしよう。とめられない。好きだよ、本当に好きなの。本当は好きなの。遊戯よりも好き。だけど、だめなんだよ。

「好きだぜ」

 まっしろになった。次に、顔が真っ赤になって、そうして、私は蒼白になった。
 聞きたくて聞きたくてたまらなかった言葉。言ってしまいたいと何度思ったかわからない言葉。――だけど、言ってはならない言葉だ。
 私のほうけた顔を見つめる表情は、とても真剣で、まっすぐで、綺麗だった。私が好きな、顔で。あなたはとても綺麗に、私をさらっていく。

。もう一度言うぜ。俺はお前のことが――」
「だめ! その先は、言っちゃだめなの」

 言葉をさえぎる。咽喉の奥が、さらにきゅうと痛いけれど、我慢しないとだめ。本当は聞きたい。形振りなんて構わずに彼の言葉を聞いてしまいたい。けれどそれは叶わない願い。遊戯は遊戯だから。
 何か言いたげな彼の唇に人差し指を当てて、「だって、私と遊戯は、きょうだいだから」と、涙を飲み込んで呟いた。彼は何も言わずに、私の目尻を優しくなぞってくれた。その指先にすら愛おしさを感じてしまう私を、心中で笑った。
「好きだよ」音には出さず、唇を動かした。遊戯は困ったように笑い、そして、何も言わずに頷いた。俺もだ、という言葉が、聞こえた気がした。
 どうして、私と遊戯は、きょうだいなんだろう。
 私だって。――私だって、音に出して、きちんと言いたいよ。遊戯。





write:2008/06/07 up:2008/12/31
「好き」も「あいしてる」も通わせてはならない二人の話