「おじゃま、します……」


光國くんの家に入るときには、何故だかいつも緊張してしまう。
『親父は今誘拐されてて居ないからそう固くすんなよ』って光國くんが言っていたけれど無理です。
…どうしてなのかなんてわかんないけど、とりあえずとても緊張する。

ゆっくりと歩いて、玄関前に立ってふうと一度息を吐く。
これは私が光國くんの家に入る前の儀式みたいなもの。
リラックスするための深呼吸のようなもの。
そして、背筋を伸ばしてチャイムを鳴らそうと手を上げたとき、不意に扉が開いた。










まるで病のように










「…あれ?ちゃん。どうしたの?」
「あ…こんにちは。…光國くんに会いに。お兄さんは何処かへ?」
「いや、なんか来そうだなって思って出たらちゃんがいたから」
「…私、霊みたいに言われてませんか?」
「うーん、それは気のせいなんじゃないかな」
「そうですか」


なんか一瞬で疲れたような気がする。
まあこの人はいつもこの調子だからこれくらいで疲れてたら何も出来やしないけど…
小さく溜息をついて、私は光國くんの一つ上のお兄さんの横を通って中に入った。
私の後ろで、光國くんのお兄さんも中に入る。
本当にこの人は何か来そうだと思って外に出たんだろうな…。


「あ、そういえば光國風呂入ってるよ?」
「…お風呂ですか?」
「あ、一緒に入るってんならそこが脱衣所だけど」
「…!そ、それは流石にセクハラですよ!」
「ハハハハ。ま、部屋で待っとけば?」
「…そうさせていただきます」


光國くんのお兄さんのこの発言も、慣れれば普通の会話になるんだけど如何せんまだ慣れない。
……いや、この会話が日常会話になっちゃったら色々とダメだと思う。
思春期の男の子の部屋に勝手に彼女なんて通したりするのはどうかと思うけど、お兄さんはそんなこと全く気にする様子も無い。
むしろ、そっちの方に転んだ方が面白いとか思ってるに違いない。

階段を上って突き当たりの部屋に入る。
本当の住人が居ないのに勝手に部屋に入るなんて申し訳ないと考えながら私は光國くんの部屋の扉をぱたんと閉めた。
床にちょこんと正座する。

通された主人不在の部屋で、私は暇を持て余した。
始めて部屋に入ったというのなら話は別で、好奇心をそそるものだらけなんだろうけど、私は何度もこの部屋にきたことがある。


なんか、だんだん眠たくなってきた。
冬は南中高度が低いから、窓から差し込む日差しの量が多い。要するに、室温が高くなる。
とどのつまり、この適度な暖かさが私の眠気を誘う。


「ふあ…光國くん、まだかな…?」


壁掛け時計の秒針が動くのをじっくり見つめ続ける。
こんなことしてるからまたさらにいっそう眠たくなるのかな…。



秒針が12回ぐらい回った頃に、やっとノブが回る音がした。


「……!…?」
「光國く……」


扉を開け、中に入ってきたのは私が来るのはまだかまだかと待ち望んだ光國くんである。
光國くんは上半身には何もまとわず、首にタオルをかけてはいたがまだ水分を滴らせていた。
下半身はちゃんとジーンズを穿いていたのは唯一の救いか。
まあとりあえず、あまりのことに言葉が出せなかった。


「…来てたのか?」
「うん…お兄さんから聞かなかった?」
「兄貴から?別に何も……いや、そういや頑張れよって言われ…」
「あの人は何考えてるの……!」


なんか笑顔のお兄さんが過ぎる。
さっきのセクハラ的発言といい、これといい。あの人もうやだ…

あのお兄さんに恨み言を心の中で列ねていると、私の横に光國くんが腰掛けた。


「普通さ、目を背けるとか声を挙げるとかするもんじゃね?」
「…男の裸を見たら、って意味?」
「そう」
「上半身だけだったら弟のもよく見るから、そう物珍しいものでもないし…」


『まあ、下半身も裸だったらそれなりに叫んだりすると思うけど』と付け足した。
光國くんがふうん、と値踏みするような何か企んでるようなそんな表情を浮かべた。
どうしたのかと思って光國くんの顔を覗き込もうとしたら、不意に、あたたかさに、包まれた。



「え、え、光國くん…っ!?」
「何?」


少し楽しそうに返された言葉は私の首の辺りから聞こえる。
風呂上りの光國くんの体は勿論熱くて、服越しのはずなのに、その熱がダイレクトに伝わるような感じがした。
濡れたままの髪が首に触れてくすぐったい。

体温が、上がる。


「や、ちょっ、光國くん放…」
「どうして?」
「どうしてって…!」



「男の裸なんて、見てもどうも思わないんだろ?……


真っ直ぐに目を見られる。
にや、と楽しげに光國くんの口元が微笑まれたのは多分、ううん、絶対見間違えじゃない。
そのまま光國くんに全てを委ねてしまっても良いやと思っている私がいる。



私の体を包む力が、またほんの少し強く、そして優しくなって、私はそっと体を光國くんに委ねた。





2005/03/22
えへへ。マイナーにもほどがある?最近までコロコロで連載してた鉄魂の光國くん。
いやもうまじで大好きなの、光國が。あ、トオルも好き。
そうそう、色々とセクハラ発言したお兄さんはベタ塗ってない方のお兄さん。
ちょっと自分の欲望に従いすぎた夢でごめんなさい。
でも本気で光國くん大好き。

←戻る