滲 み 、 霞 む
「…正守さんの、所為です……」
私は、真っ赤に泣き腫らした眼で見上げて声を絞り出した。
正守さんは心痛そうな顔をして私を見下ろしていた。
責めようとしているわけではない。
ただ、この胸の内を打ち明けられる人がいないから、唯一理由として仕立て上げられそうな彼に何かを言いたかった。
言いたかったというよりも、この苦しみを吐き出してしまいたかった。
彼だって私と同じように辛いことも知っていたし、どうにかして限くんを助けようとしていたのも知っていた。
けれど、そういうことを知っていても、私は自分を守る為に、言ってしまいたかった。
正守さんはオトナであろうとしている。夜行の頭領であろうとしている。
だから、私の我侭をきいてくれる。
知ってて私は利用する。自分を、自分の心を護るため。
「正守さんが、『もう少し持ち堪えていてくれ』って、連絡してくれてたら、限くんは、完全変化しないでいられたかも、しれないのに」
零れ落ちる涙が頬を通り、ぽつりと式服にシミを作る。
涙を拭おうとすらせず、私は左腕に爪を立てて言葉を紡ぐ。
時折言葉が掠れるのが酷くもどかしかった。
「……限くんなら」
声が、震えた。
「正守さんに言われたこと、全部、守ります。そういう、人だから」
言っちゃ駄目だってわかってる自分と、言ってしまわなきゃ私が駄目になるって知っている自分とが、綯交ぜのごちゃ混ぜになって胸の奥に鉛のように沈んでく。
正守さんが悪いんじゃない。悪いのはあの黒芒楼。
わかってる。わかってるけど。そう簡単に割り切れるものじゃ、なくて。
「知ってて、正守さんは、限くんに、連絡しなかったんですか?」
しゃくり上げる声に、正守さんが私に腕を伸ばしかけて、躊躇うようにそれを止めた。
触れたって別に構わないのに。
「…正守さん」
震える声に、正守さんはほんの少しだけ肩を揺らした。
うん、知ってる。正守さんがとても優しくて、今どうしていいかわからないなんてこと。
「どうして、限くんが、死んじゃうんですか――?」
堪えていたものが全部全部溢れ出る。
もう無理。さっきまでは声を出すのを我慢できたのにもう今はできない。
嗚咽がこぼれ、涙が途切れない。――止まらない。
「……どうしてぇ?」
ぼろぼろに泣き出した私に、正守さんは一瞬驚いたみたいだけれど、意を決したように苦笑いすると、そっと腕を伸ばして私の頭をぽんぽんと撫でた。
「…恨んでも、良いから」
それで気が紛れるなら、好きなだけ怨んで嫌ってくれて構わない。
正守さんはそういいながら私の頭を撫でた。
そしてぎゅうと彼の大きな腕に抱きこまれる。
そのあたたかさがあの日抱き締めてくれた限くんを彷彿させて、また涙が浮かんだ。
――嗚呼、正守さんを怨んで嫌うことができるなら、どんなに気楽だろう?
「限くん……っ」
夜が、明けない。
2005/12/03
限くん追悼夢。今更! という感じがしますが、ショックが大きくて今まで書けなかったんですよ…。
本当、14歳の男の子が死んじゃうなんて…思わなかった…そうやって、思い込んでた節があったんです。
若い子が、殉職なんてするはずない。謂れのない確信があっただけに、予想が大きく外れてて。
ああもう今でも泣ける…。限くん大好きなのよ…あああああ。まっさんのすかんたこ…
同士いて、その人の心に少しでも響けば嬉しいな、なんて思います。
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