揺れる波間、かたる静寂 12

 モクバくんに連れられるまま車に乗り込んで、町のほぼ中心部にあるKCのビルに向かった。その車は何時だったか乗せられたものとは違うものだったけれど、それでもやっぱり高級感が漂っていて、無意識のうちに緊張してしまう。
 車から降りて、ぼんやりと、ビルの前にある三体の青眼像を見上げる。随分と精巧なつくりで、目には青い石が嵌め込まれていた。青眼は瀬人くんと海馬くんの共通点だな、と昔を思わず懐かしんでしまう。瀬人くんは本当の青眼のカードは一枚も持っていなかったけれど、モクバくんが描いた青眼という、大切なカードを持っていた。
 彼の夢は、きっと、一つ一つ、着実に叶えられている。昔の記憶を、置き去りにして。
 それが悪いことだとは、本当は断言できない。けれど、全てをなくしてしまうことは、悲しすぎることだと思う。置き去りにされた記憶の中の住人だからこそ、そう思うのかもしれないけれど。

? 何してるんだ?」

 階段を上がった先から、モクバくんが声をかけてくる。
 青眼を見ながら、随分思索に耽っていたらしい。私は青眼から視線を外し、階段を半ば駆けるようにしてのぼりきった。

「ご、ごめんねモクバくん。ちょっと……青眼に見とれてた」
「なんだよそれ」

 けらけらと、からかいすら含んだ声色でモクバくんが笑う。上手くできたかは置いておくにして、何とかごまかせたみたい。心の中で安堵の息を吐く。

「近くで見るのはじめてだったから。こんなに大きかったのね」
「兄サマの指示でさ。あの目、イミテーションじゃなくて本物埋め込んであるんだぜ? 何て言ったかな……」
「そうなんだ……」

 もう一度青眼像に視線を向ける。階段を上りきって像の後ろに回りこんでしまったから、モクバくんの言う青い目は見れないけれど、海馬くんが如何にこだわったかは像のディティールの細かさから見て取れる。

「あ、思い出した!」
「え? 何を?」
「青眼の像に埋めた石の名前。『タンザナイト』って石だぜ」

 タンザナイト。パワーストーンを扱っていた雑貨屋さんで見かけたことがある。確か、別名、ブルーゾイサイト。けれど、ティファニーがタンザニアの石って意味で名付けた「タンザナイト」の方が有名になって、それが定着したんだってお店の人が言っていた。

「夕日が差し込むと、紫がかった青になって、その色もきれいなんだ」
「へえ……。それなら、帰りは目の辺りを重点的に見てみるね」
「おう!」

 日差しが差し込んで明るいエントランスに入ると、モクバくんに「、こっち」と腕を引かれた。どこに行けばいいのかもわからない私は、引かれるままにモクバくんについていく。

「ちょっと待ってて、今受付でのIDもらってくるから」
「ID?」
「そ。無いと行けない場所とかあるから。まあそういうトコは見せられない気もするけど、念のために。ちょっと待っててな」
「あ、うん。待ってます」

 モクバくんを見送る。私はぼんやりとモクバくんの背中を見つめた。その背中はごく普通の小学生にしか見えないけれど、KCでは海馬くんの次にえらいひと。大人たちと対等に話し、優位に立ち、小学生とは思えないような立ち回りを見せて。モクバくんが「会社が乗っ取られかけてからそんなに時間が経ってないから」と悲しげに笑った顔を、私は覚えている。
 私の前でだけは、モクバくんは、モクバくんのままでいてほしい。……気を張らないで、気楽に過ごせる存在でありたい。
 そして、できることなら、海馬くんにとってもそんな存在になれたら良いのに。
 どうしてか、驚くくらい自然に、そう、思った。









write:2009/02/25 up:2009/02/26